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2019年 映画・演劇・舞台 etc

    
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2019.1.5

アリー/スター誕生
A STAR IS BORN


映画『A Star Is Born』は、4度目の
リメイクということだが、前3作は観ていない。
この4度目リメイク版は、当初 ビヨンセ主演、
クリント・イーストウッド監督という予定だったが、
二転三転し、イーストウッド監督は、
主役にエスペランサ・スポルディングを構想したと
いう記述もあった。
それは、それで観てみたいな。
結局、ブラッドリー・クーパーが出演と監督デビュー、
主役アリー役には、レディー・ガガとなった。

さて、本作、劇中のレディー・ガガの歌が
素晴らしいと評判だが、それは確かだ。
でも、映画としてどうだったかと訊かれると
ちょっと期待していたほどではなかった。
もう、レディー・ガガの映画になってしもてて、
売れない歌手アリーの成功物語には
思えないのだ。
こういう映画には、無名だけどメチャクチャ
歌が上手い歌手や役者を使って欲しいな。
まあ、レディー・ガガを使った方が、
お客さんは入るのは分かるけど。

(以下、ネタバレ含む。)
アリーの鼻がデカくて、レコード会社に
相手にされないという設定なのだけど、
私から見ると、全然デカくないし、
スッピンでも美人だし、この設定には
説得力なかったな。
アメリカ人にしたら、あの鼻デカいのか?

それから、ブラッドリー・クーパー演じる
ジャクソンとアリーが恋に落ちていく様子も
あんまりピンと来ないし、
ジャクソンが、アリーと結婚して
酷いアル中になっていくのも共感できない。
もともと酒好きだったのは、分かるけど、
惚れた女と結婚して幸せなはずなのに、
酒に溺れていくほどの苦悩が伝わってこない。
アリーが脚光浴びることへの嫉妬とも思えない。
そうだとしても伝わってこない。
そして、最後に自ら命を絶つのも、
よく分からない。
もちろん、自殺する人の苦しさは、
分かりようがないのだけど、
アル中を克服して、やっと家に戻って来られたのに
アリーのマネージャーにあれくらい言われた位で、
死んでしまうのか。
そこも彼の苦しさが伝わってこないのだ。
という風に、ジャクソンに感情移入が出来ず、
中途半端な印象を否めない。
これは、脚本の問題でしょうかね。
(脚本は、ブラッドリー・クーパーほか
2名がクレジットされている。)

あと、アリーの歌を1回聴いただけで、
翌日のコンサートにちゃんとバンドで
アレンジした上、ぶっつけ本番でアリーに
歌わせるというのも、ちょっとおとぎ話やなぁ。

ブラッドリー・クーパーは、
歌も上手かったし、酔ってる時としらふの時と
顔つきが違ったし、中々良かったんやけどね。
ジャクソンの兄のボビー役の
サム・エリオットも渋くて良かった。

マニアックなことだが、アリーの自宅の
ベッドルームの壁に『Tapestry』のLPが
飾ってあったのは、ええ演出やなぁ。
2014年にアメリカのグラミー賞が主催する
「MusiCares Person of the Year」を
キャロル・キングが受賞した記念コンサートを
収録した『A Musicares Tribute To Carol King』
という DVD がある。
その中でレディー・ガガが、
"You’ve Got A Friend" をピアノ弾き語りで
歌ってるんやけど、これが素晴らしい。
私は、ちゃんとレディー・ガガの音楽を
聴いたことがなくて、この DVD で、
初めてちゃんと彼女の歌を聴いたんやけど、
素晴らしくて うなってしもたもん。
当然、ガガはキャロル・キングのファンだった
だろうから、あの壁の『Tapestry』は、
なんか嬉しかった。
(『Tapestry(つづれおり)』は、1971年の
キャロル・キングのアルバム。超名盤。)


★★★★☆
★半分は、ガガの歌に


Barbra Streisand の方(1976年)も観てみたい。





2019.1.12

喜望峰の風に乗せて
THE MERCY


コリン・ファース、レイチェル・ワイズ
主演の映画『喜望峰の風に乗せて』。
コリン・ファースが、1968年にヨット
世界一周レースに参加した実在の
ドナルド・クローハーストを演じる。
レイチェル・ワイズはその妻役。

ランチにワインを2杯飲んで
ほろ酔い気分だったせいか、予告編を
観ている間に眠気に襲われ、寝てしまった。
気が付いたのは、ドナルドが海に出て
嵐に襲われるシーン。
嵐で音がデカくなったので目が覚めた。
始まってから、30〜40分は経っていただろう。

レースに参加する前の背景などを
観られなかったわけで、感想を書くのも
ためらいがないわけではないが、
一緒に観た妻に前半部分の説明も聞いた上で
書くことにする。

主人公のドナルドは、航海中に2つの
大きな決断をするのが、それがどうも解せない。
共感できないのだ。
2つ目の決断は、特に。
あまりにも身勝手な感じがするのだが、
何カ月も海の上で独りぼっちだったら、
正気を保つのは難しいのも分かる気がする。
(そういう描写もあった。)

ラストを観て、もう一度最初から観たいと
思ったら観に行くのだけど、
そこまでは思わなかった。

邦題も良くない。
原題は『The Mercy』。
「慈悲」とか「情け深い心」とかいう意味だが、
映画の中では「救い」と訳されていた。
『喜望峰の風に乗せて』という言葉からくる
イメージの映画ではなく、ネタバレになるが
そもそも喜望峰まで辿りついてもいない。
では何というタイトルだったら良かったのかと
訊かれると困るけど『喜望峰の風に乗せて』は
ないやろと思った。

人のダークサイドに焦点を当てたのは、
分かるけど、なぜ、この人の映画を作ったのか、
テーマというかメッセージもよく分からなかった。

実在の人物なので、
家族はどう思っているんだろう。


★評価は なし







それだけが、僕の世界
KEYS TO THE HEART


本日の2本目。
久しぶりの韓国映画。
イ・ビョンホン主演の
『それだけが、僕の世界』。

これは良かった。
かなり、泣きました。

子供の頃、母親に捨てられた元プロボクサー、
ジョハ(イ・ビョンホン)が、
偶然、母親と再会する。
母親はの息子と二人で暮らしていた。
その息子はジョハの弟だが、
彼はサヴァン症候群で、ピアノの天才だった。

ジョハを捨てた母親は、DV の夫から
命からがら逃げたのだが、
子供のジョハは、捨てられたとしか思えない。
そんなジョハの辛さ、寂しさを
イ・ビョンホンが見事に演じている。
母親役のユン・ヨジョンも素晴らしい。

そして、弟ジンテ役のパク・ジョンミンが凄い。
自閉症、サヴァン症候群、ピアノの天才という
難しい役をまるでドキュメンタリーを
観ているかと思わせるほどの演技。
ピアノは、撮影3ヶ月前からの特訓だと
オフィシャルサイトに書いてあったけど、
実際に弾いているようにしか見えなかった。
韓国の俳優のレベルは高いと言われるのも
納得のキャスト。
そのほかの脇役の皆さんもみんな良い。

ひとつだけ、腑に落ちなかったのは、
ジョハが、カナダに行こうとしたところ。
(どうせ行かないのに)と分かり切っている
展開だったけど、今書きながら、
ジョハも迷っていたのかなと思った。

大いに泣いて、大いに笑えます。


★★★★★








2019.2.2

マスカレード・ホテル

木村拓哉、長澤まさみ主演の映画
『マスカレード・ホテル』。
原作が東野圭吾の小説ということで
観てみることにした。
ホテルで殺人事件が起きると断定した
警察は、潜入捜査に踏み切る。
木村拓哉は、ホテルマンに化ける刑事・新田。
長澤まさみは本物のフロントクラークで
キムタクの指導係・山岸という設定。

前半は誰が犯人か分からず、
サスペンスらしく面白かったけど、
後半は、サスペンスとしては
やや失速した感がある。

が、山岸の語るホテルマンのあり方や
サービスの根本にあるものに触れ、
無愛想でむさくるしい雰囲気だった
刑事 新田が、それなりのホテルマンとして
成長していく様子は、中々良い。
原作は、未読だがその辺りもこの作品の
魅力かも知れないと思った。

以下、ややネタバレ、注意。
「サスペンスとしてはやや失速」と
書いたが、犯人を演じている役者が
変装をしていて全く誰か分からなかった。
誰か分かった時は、ちょっと驚きました。

監督は、『HERO』でキムタクと
組んだ鈴木雅之。
「ラッツ & スター」の人とは別人。


★★★▲☆








2019.2.14

野 獣

「野獣」といっても、引退を発表した柔道の
松本薫選手のことではない。
米国アカデミー賞のことをチェックしていたら、
短編実写映画賞部門にノミネートされている
『野獣』(原題 "Fauve")という作品が
期間限定で無料で観られることを
発見したので観てみた。

カナダの作品で、登場人物は、
小学生らしき子供2人とおばさんのみ。
この子供達の演技が素晴らしい。

以下、多少ネタバレになるので注意。

感想は、なんともやり切れない。
人生で取り返しのつかないミスを犯すことは
誰にでもあり得るのだが、
ほとんどのミスや間違いは なんとかなるもんだ。
が、本当に取り返しのつかない、
どうしようもない間違いもある。
それを子供の頃に体験するというのは、
一生、そのことと向き合って行かなければ
ならないわけで、その重みを思うと
なんともやり切れなくなる。
主役の少年は、このあと、どうするんだろうか。

希望も救いもないようなストーリーだが、
これが現実で、これが私たちの生きている世界だと
自分を戒める気持ちになった。
調子に乗ってはいけない、
目覚めていなければいけない、と。

原題の「Fauve」は仏語で「野獣・猛獣」の意。
なぜ、このタイトルなのかは、
鈍感な私にはいまだにピンとこない。
あるいは「Fauve」には「茶色い・黄褐色」という
意味もあるようなので、そっちのような気もするが。

16分ほどの作品なので、ご興味ある方は観てください。
字幕付き。
2月18日(月) 23:59までの期間限定です。

こ こ で 視 聴 で き ま す。

ハッピーな作品ではありません。念のため。


★★★★☆





2019.2.19

ノーザン・ソウル
NORTHERN SOUL


予告編を見て「これは観ないと」と
思っていた映画『ノーザン・ソウル』。
2014年の作品なのに
なぜか今頃になって公開された。
いわゆる単館系なので、東京でも新宿と
吉祥寺でそれぞれ一館でしかやっていないけど。

舞台は、1974年のイングランド北部の町。
家にも学校にも居場所のない高校生のジョンが、
アメリカのソウル・ミュージックと出会い、
仲間と新たな生き方を手に入れるという
青春物語。

タイトルの『ノーザン・ソウル』は、
アメリカ北部の(例えばフィラデルフィアとか)
ソウル・ミュージックのことかと思いきや、
イングランド北部周辺のクラブで好まれていた
ソウルのことだった。

クラブというのは、日本のディスコに
あたるんだろうけど、そこで DJ 達が、
まだあまり知られていないソウルの曲を
かけていたらしい。
で、DJ のオリジナリティを出すためだろうけど、
曲名を隠すためにレコード盤のレーベル部分に
紙を貼っていたらしい。
その曲名を隠すことを “COVER UP” と
呼ぶのだが、そんな文化があったのは、
本作を観て初めて知った。

激しい性描写があるわけではないが、
R-15指定になっているのは、
おそらく「薬」のせいだろう。
18歳なのにタバコも酒もやっているのも
日本としては、教育上よろしくないという
判断かも知れない。

劇中でかかるソウル・ナンバーは、
私が知っているような有名な曲はなく、
とてもマニアック。
色んなアーティストの名前が登場するが、
知っていたのは、フランキー・ヴァリと
マーヴィン・ゲイだけ。
サウンドトラック・リスト

若いということは、危ういこと。
でも、生きていれば、やり直せる。


★★★▲☆








2019.2.24

ファースト・マン
FIRST MAN


アポロ11号が人類初の月面着陸に
成功したのは、1969年7月20日。
私が小学1年生の夏だった。
事の重大さは、分かっていなかったけど、
「人間が月へ行った」ことは
日本でも大きな話題になっていた覚えはある。

翌年の大阪万国博覧会には、アメリカ館で
月から持ち帰った「石」が展示された。
当時小学2年生だった私は、
万博へ4回連れて行ってもらったと
記憶しているが、アメリカ館はいつも
長蛇の列だったので、並ぶことを断念し、
月の石は観ていない。
(この頃から並んでまで何かを手に入れようと
いう根気はなかったようだ。)

映画『ファースト・マン』は
アポロ11号の船長で、最初に月に降り立った
ニール・アームストロングの伝記映画だ。
監督は『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル。
ニールを演じるのは、ライアン・ゴズリング。

アポロの映画といえば、1995年の
トム・ハンクス主演『アポロ13』を思い出す。
あの映画も実話をベースにしており、
感動的だった覚えがあるので、
本作にもおのずと期待が高まった。

がなんやろ、この物足りない感じ。
思うにニールの苦悩がイマイチ伝わってこない。
幼い娘を亡くした辛さや、
事故で同僚を失ったショック、
月へ行く前、子供や妻と永遠の別れに
なるかもしれない恐怖、それらが、
あまりに淡々と描かれている印象で、
物足りないのだな。
感情移入できないというか。
まあ、観る側の想像力の問題と言われれば、
それまでやけど。

生還後の妻(クレア・フォイ)との対面も、
私には物足りない。
そのシーンを「こんなにたくさんのことを
物語る無表情があるだろうか」と書いている人が
いたのだけど、そう言われるとやはり、
こちらの想像力不足かと思わざるを得ない。

もっと分かりやすい感動作が好きなのかと
問われれば、そういうことになるのかも知れない。
撮影がアップが多いのも気になった。
でも、月に降り立った時の無音の演出は良かったな。

月から帰還するのも命がけなんだろうけど、
そこは全く描かれていない。
そこまで描くと141分では済まなくなるだろうけど。

ところで。
「宇宙で死んだ人は、一人もいない」と
何かで読んだ覚えがある。
思い違いかもしれないので
調べてみると飛行中の死亡事故は、
スペース・シャトルの爆発などいくつかあるが、
それらは大気圏内の事故が多く、
宇宙空間での死亡事故は、ソビエトの
ソユーズ11号の事故(1971年)だけのようなので
私が読んだ「一人もいない」は、
米国に限った話だったのかもしれない。

この映画では、1967年のアポロ1号の
訓練中の事故が描かれており、
それが飛び立ってもいないロケットの中での
火災によるものであったことを知り、
ちょっとショックだった。
人類が月に降り立つという偉業の前に
尊い命がいくつも失われていたのだな。

最後、ケネディ大統領の演説で
終わるのが、アメリカ的だなと思った。

それにしても、あれから50年も経ったなんて
凄いなぁと思うのと同時に、
50年も前に人間が月まで行ったのかということも
今ではあらたな驚きです。

★★★▲☆







七つの会議

池井戸潤の小説が原作の映画『七つの会議』。

出演は、野村萬斎、香川照之、朝倉あき、
片岡愛之助、及川光博、立川談春、吉田羊、
鹿賀丈史、世良公則、音尾琢真、泉孝太郎、
橋爪功、春風亭昇太、北大路欣也、と
かなり豪華。
あ、役所広司もチラッと出ます。

サスペンスで面白かった。
ホントにサラリーマンってこうなのかね。
まあフィクションだし、エンタメだから
大げさに描いている部分もあるだろうけどね。
私なんか、10代の時にすでに
「ネクタイ締めて毎日満員電車に
乗るなんてイヤだ」と
思っていたぐらいだから、
とてもじゃないけど勤まらんね。

野村萬斎の映画は、『のぼうの城』
(2012年)に続いて 観るの2本目。
『のぼうの城』は時代劇だったからか
気にならなかったけど、現代劇には、
野村萬斎はちょっとセリフ回しが
臭すぎないかと感じたのは残念。
そして、香川照之の大げさな芝居。
ま、これは嫌いじゃないけど。

企業によるデータ偽造と隠ぺいは、
たぶんずっと前からあって、
どんなに大きな問題になっても
無くなっていない。
エンタメでありながらも
そこに一石投じるメッセージ性もあり。

この作品も『ファースト・マン』同様
顔のアップが多かったなぁ。
なんであんな撮り方すんのやろ。
映画館で観たら、顔デカすぎ。


★★★★☆








2019.3.5

アカデミー賞

ちょっとアカデミー賞にも触れておこう。
まず、アメリカ。
作品賞『グリーンブック』も監督賞『ROMA』の
アルフォンソ・キュアロン監督についても
作品をまだ観ていないので何も書けないのだけど、
主演男優賞のラミ・マレックについては、
『ボヘミアン・ラプソディ』を2度観た
観客の一人としては、
「良かった。おめでとう」と言いたいね。
もう、ホンマにフレディやったもんね。
まあ、主演男優賞の他のノミネートのうち、
『アリー スター誕生』の
ブラッドリー・クーパーしか
観ていないから、なんとも
言えない部分もあるんだけど。

主演女優賞はノミネート作品で
観たのは、レディ・ガガだけ。
ガガは良かったけど、作品自体は
私には物足りなかった。

監督賞に至っては、まだ1本も観ていない。
考えてみれば、米国アカデミー賞に
関しては、毎年、受賞後に観る作品が多いんだな。

ただ、劇場公開作品だけではなく、
ネット配信の作品(『ROMA』)が、
賞を獲った(監督賞・他)ということは、
新しい時代の到来を表していると思う。
このアルフォンソ・キュアロン監督、
2013年にも『ゼロ・グラビティ』で
監督賞を獲ってるんやね。

作品賞の『グリーンブック』は、
受賞発表の後、スパイク・リーが
怒っちゃったり、他にも批判があるようやけど、
作品は良さそうなのでぜひ観ようと思う。

外国語映画賞でノミネートされていた
『万引き家族』と長編アニメーション賞で
ノミネートされていた『未来の未来』が、
受賞を逃したのは、日本人としては
残念だけど、仕方ないな。
ノミネートされただけで、素晴らしいんやから。

日本アカデミー賞はというと、
これまた今回は、ノミネート作品の
多くを観ていないので、何とも言いがたいが、
是枝監督の『万引き家族』が、
8部門も受賞したことに対して、
『万引き家族』と張り合えるほどの
優れた作品が少ないんじゃないかと
日本の映画界を憂えてしまうのは、
私だけだろうかね。
まあ、もうちょっとノミネート作品を
観てからコメントした方が
良いんだろうけど。





2019.3.10

あなたはまだ帰ってこない
LA DOULEUR/MEMOIR OF PAIN


マルグリット・デュラスの自伝的小説「苦悩」を
映画化した『あなたはまだ帰ってこない』。
原題仏語の「LA DOULEUR」は
「痛み」という意味のようだ。
英語題「MEMOIR OF PAIN」は「痛みの記憶」か。

1944年、ナチス占領下のフランスで、
レジスタンス活動していた、
マルグリットと夫のロベール。
そのロベールが、ドイツの警察に
逮捕されてしまう。
なんとか夫を救い出そうと、
マルグリットは、ドイツの刑事ラビエと
何度も会い、情報を聞き出そうとする。
一方 ラビエは、マルグリットから
レジスタンスの情報を探ろうとしてくる。
この辺は、心理的駆け引きがあり、
ちょっとサスペンス的要素もあり、
どうなるんだろうと思って観ていたが、
始まって1時間ほど過ぎてから、
どうしようもない睡魔に襲われた。

気が付くと、あんなにダンナを心配し
帰りを待ちわびていたマルグリットの態度が
一変し「ダンナと会いたくない」と言っている。
私が気を失っている(寝てた)間に
何かがあったのだ!

その肝心な部分を見落としてしまったので、
なんやよう分からん映画になってしまった。
もう一度観たい気持ちもあるが、
どうかなぁ・・・。


マルグリット・デュラスって、
『愛人/ラマン』の人(原作者)なんや。
映画『愛人/ラマン』(1992年)は、
映画館で観たような気がするけど、
レンタルビデオで観たのかもしれん。
この『愛人/ラマン』も自伝的小説とある。
ドラマチックな人生の人やったんやなあ。


途中で寝たんで ★ 評価は、なし。








2019.3.12

運び屋
THE MULE


今年5月で、89歳(!)になる、
クリント・イーストウッド監督の
最新作『運び屋』。
原題の「MULE」というのは、麻薬なのどの
運び屋のことを指すスラングのようだ。

この10年以上、クリント・イーストウッド
がらみの作品はほとんど観ているが、
本作も素晴らしかった。
それにしても、88歳にして
作品を撮り続ける、しかも本作は
主演まで務めてしまうという、
そのエネルギーとバイタリティと創作意欲には、
驚きと畏怖の念さえ抱くね。
監督と主演を兼ねるのは、2008年の
『グラン・トリノ』以来。
映画出演は、2012年の『人生の特等席』以来。

物語。
クリント・イーストウッド演じる
アール・ストーンは、商売に失敗し、
自宅を差し押さえられてしまう。
そこで、車を運転するだけでいい金になるという
仕事を紹介される。

予告編を観て、麻薬と知らずに
運んでいたのかと思ったけど、
映画を見る限り最初から分かりそうなくらい、
ヤバそうな人たちが登場する。

以下、ややネタバレです。
3回目だったか、ついに荷物の中身を見て
麻薬であることを知ってしまう。
麻薬だと知ったアールは、運び屋を
やめるのかと思ったら、そのまま続けるねんな。
なにしろ、金が良い。
まあやめられなくなったんだな。
その金で自宅を取り返し、
孫の結婚パーティの金を出し、
友人を救う。
しかし、捜査の手はじわじわとアールに
近づいてくる。
その麻薬捜査官に ブラッドリー・クーパー。
結末は、書かないけど、
なんか意味不明に泣けました。
ええ映画です。

アールは、仕事(花の栽培)人間で
家庭を顧みない男だった。
そのため、妻にも娘にも見放されている。
その娘役にクリント・イーストウッドの
本当の娘アリソン・イーストウッドが出演。
きっと、クリント・イーストウッドも
若い頃、仕事ばかりだったんだろうな。

アールじいさんは、平気で(悪気なく)
黒人に「二グロ」と言い、
メキシコ人に「タコス野郎」と言います。
でも、彼らに優しい。
この辺りには、『グラン・トリノ』に
通ずるもんも感じられ、
クリント・イーストウッドらしくて好きやな。

最後に流れる曲の歌詞に
88歳のクリント・イーストウッドの
メッセージが込められてるようで、
ガツンと来ます。

宣伝コピーに「前代未聞の実話」とあるように
「The New York Times Magazine」に掲載された
実話に着想を得て制作されたとのこと。


★★★★★








2019.3.15

判決、ふたつの希望
L'INSULTE/THE INSULT


昨年9月に劇場で観た映画
『判決、ふたつの希望』

もう一度観たくなり、DVDで鑑賞した。

やはり、とても良い映画で
再び感動した。
争い・復讐とともに
人間であることの希望を描いている。
その希望は、理解と赦し。

過去の敵だというだけで反応し、
罵倒の言葉を吐いてしまう人間。
冷静であれば、その敵でさえ
困っていれば助けることが出来る人間。
どちらも同じ人間。
さて、どちらの人間として、
人類は未来を築きますか?
あなたは生きますか?
そんな問いかけを本作から感じ取った。

「未来のことを考えたら、
いま、やるべきことはわかっている。
でも、過去がそれを許さない。
この人類普遍の問題に心を痛める人々に、
この映画は希望をもたらすか ――」

凄く難しい問題だけど、
間違いなく希望はある。
それでこそ、人間だと思う。


★★★★★








2019.3.16

グリーンブック
GREEN BOOK


トロント国際映画祭で観客賞を受賞し、
ゴールデン・グローブ賞では、
作品賞を含む最多3部門を受賞、そして、
本年度アカデミー賞で作品賞、脚本賞、
助演男優賞(マハーシャラ・アリ)を
受賞した『グリーンブック』。

舞台は、1962年のアメリカ。
黒人ピアニスト、ドクター・ドン・
シャーリー(マハーシャラ・アリ) と、
その運転手兼ボディガードに雇われた
イタリア系アメリカ人のトニー・
バレロンガ (ヴィゴ・モーテンセン) は、
人種差別が根強い南部へ演奏ツアーに出る。
タイトルの「グリーンブック」は、
黒人が泊まれるホテルなどを紹介した
当時の黒人用旅行ガイドのこと。

映画は軽いタッチで、描かれているが、
当時の黒人差別は酷いもんだ。
おそらく、実際は映画で描かれているより
もっと酷かったんだと思う。
明らかに黒人を差別していたトニーが、
南部を周る間に、シャーリーと
人間関係を築き、シャーリーの
影響で人として成長していく姿に、
感動したね。

この映画に対し、一部で、
「結局、白人が "上から" 黒人を救ったという
話だ」という批判的な意見もあるようだが、
私はそんな風には感じられなかった。
それは、日本人には分からない世界で、
差別を受けた、黒人が感じることなのかもしれない。

もちろんこれで、差別がなくなったわけではないが、
少なくとも、シャーリーとバレロンガは、
友情を築き、互いに理解しあったようだから、
素直にええ話やと思う。

シャーリーもバレロンガ も自在の人物で、
この南部ツアーも実話を基にしている。
ドクター・シャーリーというピアニストの
名前は、聞いたことがなかった。
黒人というだけで、私は観る前から無意識に
ジャズ・ピアニストだと決めつけていたのだが、
シャーリーは、元々はクラシックの
ピアニストだった。
劇中で演奏される音楽は、ピアノと
チェロとコントラバスのトリオで、
クラシックとジャズの中間のような音楽。
なぜ、そのような音楽を演奏するのかも、
映画の中で語られる。

トニー・バレロンガは、その後、
俳優デビューを果たし、
『ゴッドファーザー』『グッドフェローズ』
『フェイク』などに出演したというのも興味深い。

ところで、マハーシャラ・アリは、
本当にピアノを弾いているように
見えるんだけど、どうなんだろう。
本作同様、アカデミー賞助演男優賞を
受賞した『ムーンライト』の時より
断然、本作の方がいい。


★★★★★


グリーンブック(GREEN BOOK)








2019.3.23

ねことじいちゃん

立川志の輔師匠主演なので観たいと
思っていた映画『ねことじいちゃん』。
監督は、動物写真家の岩合光昭。
映画は初監督作となる。

出演は、志の輔師匠のほか、
柴咲コウ、小林薫、田中裕子、柄本佑ら。

まあこの映画は、猫の映画だな。
猫好きには、たまらないんじゃないだろうか。
猫が、ちゃんと演技しているように
見えるのも不思議な感じ。
でも、猫を差し引いて、
映画としてどうかと問われると、
私にはちょっと物足りない。

舞台は島なのだが、その風景は美しく、
猫はかわいい。

映画では、どこの島か明確に
描かれておらず、私は瀬戸内海の
どこかか、長崎・佐賀あたりかと
思っていたら、愛知県の
佐久島という島だった。
佐久島は実際に猫が多い島として、
猫好きには有名な島らしい。
一度行ってみたい。


★★★☆☆







ちいさな独裁者
DER HAUPTMANN/THE CAPTAIN


実話を元にしていると知らずに観た、
映画『ちいさな独裁者』。
ちょっと恐ろしい狂気の映画でした。

戦争映画でもあるけど、敵が出てこない。
チラッと敵の戦闘機が出てくるだけで、
登場人物は、ドイツ軍兵士、
ドイツ軍の脱走兵、ドイツの田舎の民間人。

1945年4月。
もうドイツが戦争に負けそうになっている中、
たくさんの脱走兵で、ドイツ軍は
困っていたようだ。
士気の低下もあるだろうし、
脱走兵が民間人から略奪することも
軍にとっては、問題だったんだろう。

以下、ややネタバレ含む。
部隊から脱走したヴィリー・ヘロルドは、
逃走の途中で偶然発見した、
将校の軍服を着て、大尉に成りすました。
その軍服の権威を利用し、
それから出会う兵士を次々とだまし、
やがては、脱走兵の収容所で
90人以上の処刑を行う。

何の権限もないのに、
秩序を守るためと言い、
総統(ヒトラー)から任されていると言い、
自身が脱走兵なのに、
同じ脱走兵を虐殺する狂気に至るのは、
ただただ、一着の軍服を着たからに過ぎない。
そして、自分が生き延びるために、
特別な任務を受けている大尉を演じ続けた。

映画のオフィシャルサイトには、
映画には描かれていない、
ヴィリー・ヘロルドによる虐殺も
記されている。

結局、ヘロルドは捕まるのだが、
捕まった時、21歳だったという。
21歳の若者に大勢の大人が騙され、
犯罪に加担したとも言える現実が恐ろしい。

これは、戦争中の異常な状態で
起こったことだと考えたが、
ロヴェルト・シュヴェンケ監督の
「彼らは私たちで、私たちは彼らだ。
過去は現在なのだ」という言葉を
読んで、現代社会も変わらないことが
起こっていると気が付いた。
さすがに日本では殺しはないが、
役職や地位といったものが、
この映画の軍服に代わって
狂気を生んで時折「パワハラ」事件に
なっているのは、周知のとおり。

この「軍服」に象徴される「権威」に
ついて、よくよく考える必要があると思った。

エンドロールでは、現代のドイツの街中に
ヘロルド達が現れ、街行く人に検閲を
する姿が映し出される。
もちろん、仕込だろうけど、
これを私は、監督のユーモアかと思ったが、
前述の監督の「彼らは私たちで、私たちは彼らだ。
過去は現在なのだ」という言葉を
思い浮かべると、ユーモアなんかではない。
ちょっと深いです。

ヘロルドを演じる、
マックス・フーバッヒャーという
役者が良いです。


★★★★▲








2019.3.24

彼らは私たち

映画『ちいさな独裁者』について
昨日こう書いた。

--------------------------------
これは、戦争中の異常な状態で
起こったことだと考えたが、
ロヴェルト・シュヴェンケ監督の
「彼らは私たちで、私たちは彼らだ。
過去は現在なのだ」という言葉を
読んで、現代社会も変わらないことが
起こっていると気が付いた。
さすがに日本では殺しはないが、
役職や地位といったものが、
この映画の軍服に代わって
狂気を生んで時折「パワハラ」事件に
なっているのは、周知のとおり。
---------------------------------

エントリーをアップした後も、
この映画に関する記事をいくつか読んで
監督の言葉
「彼らは私たちで、私たちは彼らだ」を
昨日、私は分かっていなかったことに
気付いた。

私は現代の誰もが、権威のある制服を着ると
ヘロルドのように間違った権力を持ち
狂気に走ってしまう恐れがある、という意味に
取ったのだが、監督は「彼」ではなく
「彼ら」と複数形で語っている。
昨夜は、そのことに違和感がなかったわけでは
ないのだが、深く考えようとしなかった。

「彼ら」は、ヘラルドを指しているのではなく、
ヘラルドの周りの人たちを指しているのだ。
いや、ヘラルドも含まれているのだろうけど。

私は、「ヘラルドが軍服を着て、
権力を持った」と解釈したのだが、
それは事の一面でしかなく、
ヘラルドを独裁者に押し上げたのは
他でもないヘラルド以外の人間たちだ。

そういう背景で、
「彼らは私たちで、私たちは彼らだ。
過去は現在なのだ」
という言葉は語られているのではないか。

ヘラルド一人の責任にしているうちは、
私たちは同じ過ちを繰り返すのかもしれない。





2019.4.8

スター誕生
A Star Is Born


ブラッドリー・クーパーと
レディー・ガガによる映画
『アリー / スター誕生』のオリジナルは、
1937年の制作で、その後、1954年、
1976年にもリメイクされた。

『アリー / スター誕生』は、正月に
劇場で観たが、1976年の
バーブラ・ストライサンド主演の
1976年のバージョンを
ビデオを借りて観てみた。

おおまかなストーリーは、
最新版と同じだが、結末がちょっと違う。
どちらも悲劇で、あまり好きではない。

2018年版で、ブラッドリー・クーパーが
演じたジャクソンは、1976年版では、
ジョン・ノーマン・ハワードという名で
クリス・クリストファーソンという
歌手・俳優が演じている。
どちらかというと、もともと歌手ではない
ブラッドリー・クーパーの歌の方が私は好みだ。

ジャクソンもジョンも才能があるのに、
どうしようもない男であることには違いない。
そして、分別のある女性が、こんな
どうしようもない男に惚れてしまうというのも
世の常なのかもしれない。

レディー・ガガが演じたアリーは、
バーブラ・ストライサンドは、
エスター・ホフマンという役名。
バーブラ・ストライサンドは、
『追憶』の優しい歌声のイメージが
強かったが、劇中ではパンチのある曲も
歌っており、ライヴ・シーンも多い。

バーブラ作曲・歌唱の
『スター誕生の愛のテーマ』
"Love Theme from A Star Is Born"は、
アカデミー賞歌曲賞を受賞した。
楽曲も映画も70年代の匂いがするねぇ。


★★★☆☆





2019.4.9

翔んで埼玉

面白そうだったので観てきた。
映画『翔んで埼玉』。
ヒットしているようで、興行収入は31億円、
観客動員数は245万人を超えたって。
若いお客さんが多かった。
知らなかったけど、漫画が原作なのだな。

この手のコメディにありそうな、
B級感みたいなものが全く感じられない。
よくぞ、ここまでバカバカしい作品を
本気で、真剣に作ったね、と拍手を送りたい。
実際、映画が終わった瞬間、
思わず拍手しそうになった。

私は、埼玉県のことをよく知らないけど、
充分に笑わせてもらった。
登場する地名「春日部」や「草加」「所沢」の
地理や土地がらを知っていれば、
もっと面白いんとちゃうかな。
良く知らなくても笑いどころはあるけど。

主演は、二階堂ふみ(男子役)と GACKT。
その他、伊勢谷友介、中尾彬、麻生久美子。
武田久美子、ブラザートム、京本政樹、
竹中直人、ほか。
監督は、『テルマエロマエ』の
竹内英樹監督と知って、納得。

埼玉県をディスっているようで、
埼玉愛に溢れた映画です。
群馬や茨城の方が微妙〜。

これは、関西では難しいかなぁ。


★★★★☆








2019.5.1 令和元年です。

イタリア映画祭2019
月を買った男
L'uomo che compro la luna


イタリア映画祭の時期が来た。
今年は、4月27日から5月4日までの開催。
2001年に始まり、今年が19回目ということだが、
私は2013年に このフェスを知ってから、
毎年数本は観に行くことにしている。

今日は『月を買った男』という作品を観てきた。
イタリアのサルデーニャ島の誰かが
月の所有権利を手に入れたという、
情報があり、イタリアの諜報機関が
サルデーニャ島出身の特殊部隊の兵士を
島へ送りこもうとする。
この兵士が、サルデーニャ島の慣習などを
知らないので、特別なレッスンを受けることになり、
レッスンを受けた兵士は、島へ行くが・・・。

コメディと紹介されていたが、
(確かに笑えるシーンもある)
私には、コメディというより、
奇抜な設定の大人のファンタジーといった印象。
かなりシュールです。
テンポがよく面白かったけど、
何が言いたかったのかとなると、
ちょっと難しいな。


★★★▲☆




原題:L'uomo che compro la luna
監督:パオロ・ズッカ Paolo Zucca
出演:ヤコポ・クッリン、ベニート・ウルグ
釜山国際映画祭出品作品





2019.5.2

ビル・エヴァンス タイム・リメンバード
TIME REMEMBERED:
LIFE & MUSIC OF BILL EVANS


ビル・エヴァンス(Jazz Pianist)の
生誕90周年を記念したドキュメンタリー映画
『ビル・エヴァンス タイム・リメンバード』
を観てきた。
どうせなら、上映後に栗林すみれ(ピアノ)と
金澤英明(ベース)のミニライブが付いている
回が良いだろうと、友人がチケットを取ってくれた。

ビル・エヴァンスについて、
私は詳しいわけではないが、
ジャズの名曲として有名な『Waltz for Debby』の
叙情的ともいえる美しく優しいプレイの印象が強い。

その美しい曲の印象とは裏腹に、映画を観ると
ビルの人生は激しいものであった。
ビルについて語る人がテンポよく次々と現れる。
私の記憶力と情報処理力の不足のためか、
「え〜っと今話している人は、誰だっけ」
というような場面が何度もあった。
おまけに、その人の紹介と、
話している言葉の字幕と、両方出ることも
珍しくなく、全部読み終わる前に、
字幕が消えてしまうこともあった。
本作を理解するには、
何度も観る必要がありそうだ。

50〜60年代に活躍した他のジャズメン同様、
ご多聞に漏れず、ビルもドラッグに手を染めた。
一度は、立ち直るも再びドラッグに手を付ける。
そして、兄の自殺、メンバーの事故死、
内縁の妻の自殺など、悲劇が彼を襲う。
レコードのジャケットにもなっている、
若い頃のやや神経質にさえ見える姿と、
晩年のひげ面は同一人物には見えないほどだ。

薬物乱用による51歳の死は、
「時間をかけた自殺」とも言われている。
それほどの才能を持ちながら・・・
いや、その才能と引き換えになのかな。

「美と真実だけを追求し、他は忘れろ。」
映画の宣伝コピーにも使われているビルの言葉だ。
音楽だけをやっていければそれでいいが、
「問題」が起きるとその対処のために
ドラッグに依存した。
美と真実の追及にヘロインが必要だったのか。

映画の中で、マイルスについて語られる場面が多く、
一瞬「これ、マイルスの映画?」と思うほどだった。
改めてその影響力と偉大さを感じたのでした。


★★★★☆





ミニ・ライヴは3曲。
ビルの曲2曲と、栗林さんのオリジナル曲
"Talk About Bill"。
ベースの金澤さんは「コジカナツル」で
何度か観たけれど、栗林さんは初めて。
"Talk About Bill" なんて曲を作るぐらいだから、
きっとビルに影響を受けているんだろうな。





2019.5.3

私が神
Io c'e


イタリア映画祭の鑑賞作2本目は『私が神』。

マッシモは、父親の残した遺産で
ローマで B&B (簡易宿泊所:Bed and Breakfast) を
経営していたが、うまく行っていない上に
税金の支払いが大変で困っていた。
ある時、宗教法人にすれば税金を
払わなくても良いことに気付き、
新興宗教を立ち上げることにする。
宿泊客は「客」ではなく「ゲスト」、
もらうのは「宿泊料」ではなく「寄付金」なのだ。
やがて、行政の認可も下り、
信者も増えていくのだが・・・。

これは、面白かった。
前半は、コメディタッチでかなり笑えた。
後半は、大笑いしている観客もいたけど、
私はだんだん笑えなくなっていった。
ちょっとシリアスになってきて、
単なるコメディとは思えなくなっていったのだ。

(以下ネタバレ含む。)
映画では、マッシモが自らでっち上げた
宗教の影響力に嫌気がさし、
「こんなのは嘘だ」と信者の前でばらすが、
信者たちには通用しない。
彼らには、本物の信仰心が
芽生えてしまっていたのだ。
人生が(良い方向に)変わってしまった
信者も少なくない。

「宗教」をディスっているとも
取れなくもないが、
もっと人間の根源的なポイントを
突いているように感じた。
コメディと侮るなかれ、深いテーマと見た。

主演は、エドアルド・レオ。
姉役にマルゲリータ・ブイ、宗教起ち上げの
協力者にジュゼッぺ・バッティストン。
ぜひ、劇場公開して欲しい。


★★★★★




[2018/100分]原題:Io c'e
監督:アレッサンドロ・アロナディーオ Alessandro Aronadio
出演:エドアルド・レオ、マルゲリータ・ブイ





アルマジロの予言
La profezia dell'armadillo


イタリア映画祭の鑑賞作3本目は
『アルマジロの予言』。

原作はイタリアの漫画のようだが、
これは、難しかった。

主人公のゼロは、イラストレーターだけど
それだけでは食えないので
アルバイトもしている27歳。

映画の紹介文には、
「幼い頃に好きだったが告白できなかった
カミーユの訃報を聞き、それをきっかけに
自身の人生を見つめ直すことになる」と
あるのだが、あんまり人生を見つめ直す感が
伝わってこない。
確かに、カミーユの死がきっかけで
色々思い出したりはするし、
何かを乗り越えて、ひとつ大人になっていく
という感じは、伝わってくるのだけど。

(以下、ネタバレ含む。)
タイトルにあるアルマジロは、
ゼロの部屋に住んでいる着ぐるみのアルマジロ。
最初、友人がふざけてそんな恰好を
しているのかと思っていたら、
そういうことでもないようで、
何の説明もない。
もしかしたら、漫画の原作を読めば
何か分かるのかもしれないけど、
これは、ゼロ自身の心の声なのかな
というのが私の結論。

音楽や美術が、若者向け作品の印象。
あ、漫画が原作だから当然か。


★★★▲☆




[2018/99分]原題:La profezia dell'armadillo
監督:エマヌエーレ・スカリンジ Emanuele Scaringi
出演:シモーネ・リベラーティ、ピエトロ・カステッリット
ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門出品作品





ザ・プレイス 運命の交差点
THE PLACE


イタリア映画祭で2本観賞後、
夕食を食べたあと、
時間がちょうど良かったのでもう1本観た。
奇しくもこれまたイタリア映画。
昨年のイタリア映画祭の上映作品だったようだ。

アメリカの『The Booth 〜欲望を喰う男』という
ドラマをリメイクした映画。
タイトルの「the place」は、カフェの店名。

舞台でも出来そうなストーリーで、
映画は全てカフェの店内で進んでいく。
映るのは、カフェの外観と店内のみ。

カフェの奥の席に座る男に、
叶えたい望みを持った様々な人が
相談にやってくる。
その望みは「盗まれた金を取り返したい」
「アルツハイマーの主人の治したい」
「子供の癌を治したい」
「美人になりたい」「彼女が欲しい」
(盲目の人が)「視力を手に入れたい」と様々。

男は、望みを叶える方法を知っている。
その方法というのが、「爆弾で人を殺せ」
「強盗しろ」「レイプしろ」「子供を殺せ」
といった無理難題ばかり。
字幕では「任務」と訳されていたけど、
その任務は、けっして強制じゃない。
「その望みを叶えたければ、
それを実行するしかない」としか言わない。

(以下、ネタバレ含む。)
そして、望みを手に入れる人も出てくるのだけど、
男と相談者の間に金銭のやり取りは、
一切出てこない。
どうも男は金儲けのためにやっているのでは
ないという設定のようだ。

一日中、カフェの同じ席に座っていて、
閉店後も座っていて、家に帰る様子も
描かれていない。
男が何者であるかは、全くの謎のまま。
その「任務」は、分厚いノートの中に
書かれてあるのだけど、そのノートも
男が自分で書いたもの。
ますます不可解なのだが、
そこはあまり問題ではない。

相談者の中には、「任務」以上のことを
やってしまうという想定外の事態も起こる。
そして、彼らは望みを手に入れていくのだが、
それは当初望んでいた望みの通りでは
なかったりもする。

話が進むうちに 各相談者の物語が、
絶妙に絡まってくるあたりは、上手く出来ている。

そして、男は、人々に「任務」を
伝え続けることに疲れてくる。

エンディングは、色んな見方が可能だろうが、
「この役割を終えたい」という男の望みに
応える人が登場した、と私は見た。

テーマは、人の望み(=欲)というのは、
犯罪と引換になるぐらい身勝手なものだということか。
その望みは、違う形で可能だというメッセージか。

単純明快な、分かりやすいハッピーエンドでは
ないが、カフェから一歩も出ず、会話だけで
これだけのストーリーが作れるのは、素晴らしい。
まるで落語のようでもあるな。



★★★★☆








2019.5.4

おとなの事情
PERFETTI SCONOSCIUTI/PERFECT STRANGERS


昨日観た映画『ザ・プレイス 運命の交差点』の
パオロ・ジェノヴェーゼ監督の2016年の作品
『おとなの事情』を ビデオで観た。
2016年のイタリアのアカデミー賞で
8部門9つのノミネート、
作品賞と脚本賞を受賞した作品だ。

友人の家に夕食会に訪れた7人の仲間たちが、
携帯電話にかかって来た電話やメールを
オープンにするというゲームを始める。
それぞれの隠し事(浮気や性癖)が、
皆の前で暴かれていくという、
ほとんどホラーのような怖い物語。

でも、最後にどんでん返しがあるのね。
そのどんでん返しが分からず、結末を観て
頭が「?」になってしまった鈍い私。
再度終わりの10分ほどを見直して、
ようやく理解。
とともに安堵。
これまた、人間ドラマとして
大変、面白い出来だと思う。
筋は違うけど、ジョディ・フォスターの
『おとなのけんか』を思い出した。
あれも部屋の中での会話劇だったし、
タイトルも似ているからかな。

出演は、昨日観た『私が神』にも出ていた
エドアルド・レオ、
ジュゼッペ・バッティストン、
『ザ・プレイス』にも出ていた
ヴァレリオ・マスタンドレア、
マルコ・ジャリーニ、
アルバ・ロルヴァケルのほか、
アンナ・フォッリエッタ、
カシア・スムトゥニアク。

『ザ・プレイス』同様、場面が変わらない。
ほとんどのシーンが、食卓です。
『ザ・プレイス』よりは、違う場所も映るけど。
低予算でも脚本次第で、
面白い作品は作れるということだな。

原題「PERFETTI SCONOSCIUTI」(伊) は
英語で「PERFECT STRANGERS」。
「見知らぬ人」「赤の他人」という意味だが、
「大人の事情」は中々の邦題だと思う。


★★★★▲


Amazon Prime Video で鑑賞。





2019.5.5

東京グランド花月

私の世代の大阪人は、子供の頃、
土曜日の夕方(だったと思う)、
毎週のように TV で「吉本新喜劇」を観ていた。
否応なく、吉本の笑いの血が身体に流れていると
言っても過言ではなかろう。(大げさ?)

小学生の頃、一度だけ親に「なんば花月」に
連れて行ってもらった覚えがある。
もう誰が出演していたか記憶にないけど。
子供の頃は、新喜劇の役者では、
花紀 京が一番好きだった。
残念ながら、2015年に死んでしもたけど。

さて今日は、小学生以来、
ほとんど50年ぶりに
吉本新喜劇を観てきたよ。
新喜劇初体験の山形出身の妻を連れて。

前半は漫才と落語。
これが予想をはるかに上回る面白さ。
みんな面白かったけど、
特にジャルジャルの漫才はツボにハマった。
大爆笑でした。

それから、新喜劇。
これも、予想以上に笑った。
テレビで観れば大して面白くないことでも
ナマで観ると面白いのだな。
やはり音楽同様、笑いもライヴだな、と
痛感したのでした。
妻も爆笑していたよ。

小薮や池乃めだか、チャーリー浜が
出ていないのは、残念だったけど、
間寛平を観られたのは良かったな。
あと、最近の新喜劇は、ほとんど
観ることがないので知らなかったのだけど、
水玉れっぷう隊 アキという人が
めちゃくちゃ面白かった。
調べてみると、水玉れっぷう隊という漫才
コンビの一人で、相方のケンも出演していた。

座長は、石田靖。
石田靖といえば、島田紳助が監督した
映画『風、スローダウン』(1991年)を思い出す。
もう20年以上前やけど、ビデオ借りて観て、
すっごい泣いた覚えがある。


[ 出 演 ]
見取り図(漫才)
ジャルジャル(コント)
ウーマンラッシュアワー(漫才)
アジアン(漫才)
千鳥(漫才)
矢野・兵動(漫才)
桂文珍(落語)

【吉本新喜劇】
座長:石田靖
間寛平、ジミー大西、水玉れっぷう隊 アキ、
水玉れっぷう隊 ケン、シベリア文太、
国崎恵美、ギンナナ、ピクニック、
赤松新、西島巧輔、小寺真理

@ 銀座ブロッサム中央会館
1回目(開演11:00)




幸福なラザロ
LAZZARO FELICE


予告編を観て、観ようと思っていた映画
『幸福なラザロ』
本作も奇しくもイタリア映画。
この GW にはイタリア映画を
(ビデオを含めると)6本も観たよ。

舞台は、20世紀後半のイタリアの田舎の村落。
ラザロという働き者で正直者の青年がいた。
村人達は、ラザロに仕事を押し付けるが、
ラザロはイヤな顔一つせず、なんでも
言われたとおりに働いた。
小作人の所有は、とうの昔に法律で禁止されたのに
そこは外の世界と隔絶されており、
領主である侯爵夫人は、村人たちを騙し、
搾取を続けていた。
侯爵夫人の息子タンクレディは、
母親に反発し、ラザロを巻き込み狂言誘拐を企てる。
それが元で、村の存在と領主による大規模な搾取は、
事件として明るみに出ることになり、
村人たちは、村を出ることになる。
しかし、ラザロだけは村を出なかった。
そして、十数年後・・・。

ラザロを演じるのは、
アドリアーノ・タルディオーロ。
本作が俳優デビュー作で、
1,000人以上の同年代の男子の中から、
選ばれたという。
まっすぐで濁りのない瞳、
純粋さを感じさせる顔つきは、
ラザロにピッタリ。

聖書には、ラザロという聖人が登場するようで、
死んだラザロをイエスが奇跡を起こして
よみがえらせるというくだりがあるようだ。
本作は、80年代に実際にあった詐欺事件を
ヒントに作られた作品ということだが、
多分に宗教的要素を含んだ作品のようで、
背景となるキリスト教に明るくない私には、
おそらく半分も理解できていないだろうと思う。

だが、ラザロの「人を疑わない、怒らない、
欲しがらない」姿には、
考えさせられるものがあった。

ラストは、ハッピーエンドとは言えないが、
悲劇にも思えない。
何か示唆的なのもキリスト教を知らないと
読み解けない感じがした。

難しい映画ではあるが、
全体を流れる空気感、雰囲気は、
嫌いではない。

監督・脚本は、本作や『大人の事情』
『ザ・プレイス』にも出演していた
アルバ・ロルヴァケルの実の妹、
アリーチェ・ロルヴァケル。
1981年生まれ。
なんと本作は、37歳の作品で、昨年
カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。
『万引き家族』と賞を競った作品でもある。

侯爵夫人は、村人たちを自由にすると、
彼らには過酷な現実が待っているから、
と小作人から搾取を続ける理由を
正当化していたのだが、
自由になった村人たちは、
十数年後、街で詐欺や盗みを働いて
暮らしている。
街には、仕事にあぶれた外国人があふれた
様子も映し出され、イタリアが抱える
社会問題も浮き彫りにしているように感じた。

原題の「LAZZARO FELICE」も邦題同様
「幸せなラザロ」の意味のようだ。
はて、ラザロは幸せだったのかと、
疑問に思う私は、もしかしたら、
本当の幸せを知らないのかもしれないと思った。


★★★★☆








2015.5.7

帰ってきたヒトラー
Er ist wieder da


GW 中にビデオで観た映画
『帰ってきたヒトラー』。
原題「Er ist wieder da」は
「彼は帰ってきた」の意。

以前、テレビ番組で観たことがあるが、
ドイツでは、学校で発言する時に
日本のように5本指をそろえて
挙手することは、禁止されている。
それはナチス式の敬礼のポーズだからだ。
映画などで観る「ハイル、ヒトラー
(ヒトラー万歳)」のポーズだ。
それを観て、ドイツ国民は、
ナチスのこと、ヒトラーのことに
日本人には想像できないほど、
敏感なんだと知った。

映画『帰ってきたヒトラー』は、
ヒトラー本人が、タイムトリップして
現代(2014年)のベルリンに
現れるという設定だ。
映画の中のドイツの人々は、
もちろん彼が本物だとは思っておらず、
ただのそっくりさんで、
芸人だと思っているので、
気軽に一緒に写真を撮ったりする。
まず、それが意外だった。
私はてっきり、ヒトラーのモノマネ
なんていう笑いをドイツ国民は、
許容しないのかと思っていたからだ。

ヒトラーは、演説も上手く(当たり前か)、
テレビに出演し次第に人々の心を掴んでゆく。
言っていることは、もっともな様にも
聞こえてくる。
それが実は、怖いことでもあるんだけど。

コメディとあったが、あまり笑えない。
設定は、荒唐無稽だが 内容はシリアスだ。

彼が本物のヒトラーだと、真実を知った
TV ディレクター、ザヴァツキの結末が
ブラック過ぎて怖い。


★★★★☆


Amazon Prime Video で鑑賞。





2019.6.10

僕たちは希望という名の列車に乗った
DAS SCHWEIGENDE KLASSENZIMMER
/THE SILENT REVOLUTION


予告編を観て、興味があった映画
『僕たちは希望という名の列車に乗った』。

ドイツ語の原題の意味は「沈黙する教室」
英語題の方は「静かな革命」となっており、
『僕たちは希望という名の列車に乗った』
という邦題は、いかがなものかと思う。
彼らは希望を持っていたけど、
その列車が「希望」という名だったとは、
私は言いたくない。
なんか、そんな軽いもんちゃうやろ、と思ったね。
いや、「希望」が軽いと言いたいわけではないよ。
映画の重厚な感じは、
「沈黙する教室」のままの方が出てると思う。

本作、実話をもとにしている。
舞台は1956年の東ドイツのスターリンシュタットという街。
(現在のアイゼンヒュッテンシュタット。実際の
事件はシュトルコーだが、そこは設定を変えてある。)
ベルリンの壁が出来る5年前のことで、
列車で西ベルリンへ行くことが出来た時代。
一応、列車に警官が乗ってきて
チェックはされるのだけど、墓参りや
親戚に会いに行くのは OK だったようだ。

しかし、情報が制限されている東ドイツでは、
西側の情報を得ることは、禁止されている。
高校生テオとクルトは、西ベルリンの映画館で
観たニュースで、ハンガリーの民衆蜂起(ほうき)
のことを知る。
ハンガリーにおけるソ連の支配に対する反乱だ。

当時、東ドイツにもソ連軍が駐留しており、
ソ連への抵抗もあった彼らはクラスに戻り、
犠牲になったハンガリー市民に
哀悼の意味を込めて、授業中に
2分間の黙とうを行う。
黙とうと言っても、ただ、黙っているだけで、
先生の言うことに答えなかっただけなのだが。

これが、国家への反逆行為とみなされ、
思いもしない大きな問題になっていく。

この事件が、ベルリンの壁が作ることに
繋がったという記述も目にした。
それほどの大問題になったのだ。

当局は、なんとしても、首謀者を明らかにしたい。
そのために卑怯ともいえる手を使って、
生徒たちに「首謀者は誰か」と追い詰める。
生徒たちは、密告してエリートの道を歩むか、
仲間を裏切らずに、退学になる
(=大学へ行けない=労働者階級のまま)かの
選択を迫られるわけだ。
物語は主に3組の親子を中心に
ドラマが展開されていく。

スキのない映画で、
理不尽な状況に追い込まれてもなお、
尊厳を守り続ける彼らに涙涙でした。

ベルリンの壁が作られ、東ドイツは、
このあともっと酷くなっていくようで、
映画『善き人のためのソナタ』では、
壁崩壊前の盗聴を描いている。
もう誰も信じられない世界。

奇しくも天安門事件から30年で
その特集番組が放映されているこの時期。
「国家」とか「主義」」とかいう
バケモノの怖さを改めて感じたのでした。
なにしろ、当時は「自分で考える」
「自分で決める」ことさえ、犯罪なのだから。

恐ろしいのは、取り締まっている側は、
正義だと信じていること。
こわい、こわい。
自分だったらどうするか、って?
考えたくないほどこわい。

ちなみに主人公たちは、高校3年生
18歳の設定だけど、演じている役者は
撮影当時20代前半から半ばが多く、
結構大人に見えます。

原作者は、ディートリッヒ・ガルスカ。
件の高校生の中の一人。
クラスメイトと一緒に西ベルリンへ逃亡後、
高校教師になった。
2006年に原作『沈黙する教室』を出版。
本作がベルリン国際映画祭でお披露目された
2か月後の昨年4月に死去。


★★★★★




オフィシャルサイト





2019.6.23

泣くな赤鬼

堤真一が、教師役だという以外、
予備知識なしで鑑賞した映画
『泣くな赤鬼』。

堤演じる小渕は、高校教師で野球部の監督。
球児達には赤鬼と呼ばれる怖い監督だ。
その赤鬼と斎藤という生徒の物語。

原作は、重松清。
それだけで泣ける作品だと分かるわな。
確かに、そこそこ泣きました。
後半、ハンカチ取り出しました。
なのに・・・
あれだけ泣けば満足なはずなのに
何かが物足りない。

ここからネタバレになりそうなので、
映画観る方は、観てから読んでね。

なんで、あんなに泣けたのに
物足りないんだろうと、考えてみた。
思うに、表面的には感情移入があるのだけれど、
イマイチ背景が分からないので、
そこまで深く入り込めない、といった感じかな。

例えば、10年前、甲子園を目指して
厳しく球児を指導していた赤鬼が、
なぜかやる気をなくしている。
それが、野球の弱い進学校に転勤に
なったからなのか、他の理由があるのか
よく分からない。

背番号を用意してまで待っていたにしては、
斎藤が野球部を辞める時の赤鬼の熱意がイマイチ。
まあ、完全に空回り状態で、赤鬼も
難しいところにいたのは分かるけど。
斎藤が退学すると言った時に至っては、
担任にも関わらず、やや無責任にさえ見える。

なぜ、斎藤が野球部を辞めたのか、
なぜ、学校をやめようと思ったのか、
そのへんの斎藤の心情や苦しみも
イマイチ描かれていない。

よくよく見ていると、
父親がいないということは、
冒頭のシーンで分かるのだけれど、
そのことについても、
仏壇があるというだけで、
何も分からない。

原作は、短編集『せんせい。』に
所収の短編ということだが、
もしかしたら、原作にはその辺も
書かれているのかも知れないな。

結局2時間にまとめようとすると、
こうなってしまうのかなぁ。
泣けただけに、ちょっと惜しい。
まあ、人の生き死にを描けば泣けるんでしょうけど。


★★★★☆








2019.6.29

パピヨン
PAPILLON


数日前、映画『パピヨン』が
上映されていることを知った。

『パピヨン』は、実在の人物、
アンリ・シャリエール (1906.11.16 -
1973.7.29) が、1931年、
無実の罪で投獄され、
仏領ギアナ(南米)の徒刑場に
送られるが、何度も何度も脱獄を試みて、
最後に本当に自由になるという実話を
ベースにした1973年の映画。
スティーブ・マックイーンと
ダスティ・ホフマンが出演している。
原作は、本人が書いた自伝小説で、
世界で1300万部売れたという。

私は子供の頃、スティーヴ・マックィーンが
好きで、ここにも書いた通り、
『パピヨン』は、特別愛蔵版DVDを
持っている程、想い入れがある。

この度の上映は、てっきり
その『パピヨン』のリバイバル上映だと思った。
もしかしたら、デジタル・リマスターかな、
やっぱり一度は、スクリーンで観てみたいな、
と思って調べてみると、
なんとリメイクではないか。

マックイーンが演じたパピヨンを
チャーリー・ハナム(カッコよいです)が、
そして、ダスティン・ホフマンが演じた
ルイ・ドガを『ボヘミアン・ラプソディ』で
フレディ・マーキュリーを演じた
ラミ・マレック(これまた味があります)が
演じている。
何度か、チャーリー・ハナムがマックイーンに、
ラミ・マレックがダスティ・ホフマンに
ダブって見えたよ。
監督は、マイケル・ノアー。

私見だがオリジナル版は、
多少ファンタスティックに描かれている感が
あったが、本作は、パピヨンが見る幻覚に
そういう描写があるもののオリジナル版より、
分かりやすいというか、現代的な演出に感じた。

また、オリジナル版は、パピヨンがデビルズ島を
脱出したシーンで終わるが、本作では、
脱走後、ベネズエラの市民権を手に入れた
パピヨンが、1969年、フランスに原作の
原稿を持ち込むシーンも付け加えられている。

オリジナル版とは、また違った味わいがあり、
これはこれで好きだな。
ちょっと気になったのは、
徒刑場は、赤道に近い南米の
フランス領ギアナにあるのだが、
映画ではあんまり暑い感じが
伝わってこなかった。
ジャングルというより、森という感じだし、
その辺は、オリジナル版の印象が強すぎるかな。
どこでロケしたんだろう、
息が白いシーンもあったよ。
それから、1931年のパリのシーンから
始まるけど、言葉が英語なのね。
これ、ヨーロッパの映画で時々あるんやけど、
アジアでいうと、中国や朝鮮が舞台なのに
日本語しゃべってるみたいな感じやろ。
めちゃくちゃ違和感やと思うねんけどな。
欧米の人は、平気なのかな。

本作に関しては、もうパピヨンの生き方が
凄いのとオリジナル版への想いがあって、
あんまり冷静な評価ができず、
上記のような疑問もありつつ、★5つです。
パピヨンとドガの友情にも感動したしね。


★★★★★








2019.7.6

凪待ち

予告編を観て、これはイケルかも
と思った映画『凪待ち』。
2010年の映画『悪人』で、妻夫木聡が、
それまでのイメージを覆したことを思い出した。
本作は、香取慎吾の芸歴で
大きなターニングポイントになるだろう。

香取が演じる 木野本郁男 に、
元スマップの明るい健康的な
アイドルの匂いは皆無だ。
終始、スクリーンから放たれる香取、
いや郁男の妙な(という表現は
妙なのだが)存在感に圧倒された。

郁男は、ろくでなしとして描かれているが、
私は自分の中にも
郁男がいることを否定出来なかった。
ギャンブル依存性の部分には
共感出来ないけど、郁男の怒りや苦しみ、
やり切れなさは十分に分かる。
怒りを暴力に替えて表現するシーンでは、
心の中で「もっとやってしまえ!」と
郁男を応援する自分がいたよ。

本作のテーマは、「喪失と再生」ということだが、
「再生」に必要なものは、人でしかなく、
その支える側の人に必要なものは、
「愛」という名の「覚悟」なのだと思った。

香取の演技は文句なく素晴らしく、
泣けるシーンもいくつかあり、
郁男の再生と石巻の(津波からの)
再生をダブらせている辺りも
本作のひとつのポイントとして良いと思う。

残念なのは、私には音楽がどうも
イマイチ合ってないような気がしたことと、
殺人事件の犯人をあの人にするのなら、
動機とか、その背景とか
もう少し描かないと無理があると思った。
別に殺さなくても、交通事故でも
良かったんじゃないか。
殺人にするなら、
なぜ殺されなきゃならなかったか、
観客は知りたいでしょ。

映画のコピーには、
「誰が殺したのか?
なぜ殺したのか?
愛という名に隠された
事件の真相とは―」とあるが、
なぜ殺されたのか真相は分からずじまい。
まさか、私が見落としてはいないと思うのだが。
また「ヒューマンサスペンス」という言葉が
使われているが、
サスペンス的要素は少なく、
これは、ヒューマンドラマと言ってよいと思う。

出演は、香取のほか、西田尚美、
恒松祐里、リリー・フランキー、吉澤健ら。
監督は『彼女がその名を知らない鳥たち』、
『凶悪』『孤狼の血』の白石和彌。

映画と直接関係はないが、
解散時には、「国民的アイドルグループが?」と
騒いだのに、そのメンバーが主役で
出演しているというのに本作は、
(少なくとも東京では)あまりテレビで
扱われていないようで、
コマーシャルも観ないし、香取が映画の
キャンペーン的に出演している様子も
目にしない。(たまたまかもしれないけど。)
それは、某事務所のテレビ局への
圧力だと聞いた。
本当かどうか知らないけど、
本当だとしたら、芸能・映画界の発展の
首を絞める芸能事務所ということになる。
それがオトナの事情というやつなのか。
残念な話だ。


★★★★▲







ザ・ファブル

岡田准一主演の映画『ザ・ファブル』。
原作は、週刊ヤングマガジン連載の漫画だと
いうことだが、読んだことはない。
岡田准一のほか、木村文乃、山本美月、
福士蒼汰、柳楽優弥、向井理、安田顕、
佐藤浩市らが共演している。

予告編を観て、コメディっぽいと
思っていたが、コメディ+アクションの
娯楽作品。

岡田准一演じる通称ファブルは、
どんな相手でもわずか6秒以内に
殺すというプロの殺し屋。
そのファブルが、ボスから1年間誰も
殺さずに大阪で普通の人として暮らすという
ミッションを命じられる。
「プロの普通」を目指し、様々な普通を生きる。
今まで不通に生きてきていないので、
ファブルは「普通」を知らない。

まあ、大爆笑するほどではないが、
それなりに面白かったし、
来年で40歳の岡田のアクションは、
相変わらず素晴らしい。
もう日本版トム・クルーズやと思ったね。
アクションは結構激しくて、
本作の見どころであることは
間違いないが、アクションシーンの
CGは、ちょっとちゃちに見えた。
その辺は、ハリウッドものに
まだまだ追いついてないのかな。

8年の刑期を終えて出所してくる
チンピラ役に柳楽優弥。
先日観た『泣くな赤鬼』には
末期がん患者の役で出演していたが、
本作では、ちょっとキレた危ない役を好演。
結構なインパクトを残している。

タイトルのファブル(fable)は、
寓話、作り話、伝説、神話、説話の意。
「ファブルは、都市伝説なのか」というような
セリフがあったので、そういうことなのかな。

岡田は大阪出身なので、
大阪弁は違和感がなくて良かった。
ネイティヴでない役者の大阪弁は、
たいてい気持ち悪いからなぁ。


★★★▲☆








2019.7.28

TAKE ME TO THE RIVER
約束の地、メンフィス

テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー


DVD で鑑賞。
2014年製作のドキュメンタリー映画。
日本での公開は、2017年6月17日で、
完全に私はミスしている。
東京でも3館でしか上映されなかった
ようなだし、おそらく上映期間も
短かったのだろう。

メンフィス(米国テネシー州)は、
音楽、特に R&B や ブルースが
好きな者には特別な土地であるはずだ。
私も23歳のアメリカ横断旅行の際、
あまり知識がないままに、
メンフィスを訪れたことがある。
その時の思い出を以前ここに書いた。

『約束の地、メンフィス テイク・ミー・トゥー・
ザ・リバー』は、レジェンド達をメンフィスに
呼び戻し、若いミュージシャンと世代を超えた
レコーディング・セッションを捉えたドキュメンタリー。
音楽映画だが、黒人の物語でもあるので、
人種差別や公民権運動など、黒人の歴史とも密接だ。
スタックス・レコードの倒産が、
キング牧師の暗殺(メンフィスで暗殺された)と
間接的にせよ関係があるなんて、知らなかった。

出演は、テレンス・ハワード、オーティス・クレイ、
ブッカー・T・ジョーンズ、ボビー・ラッシュ、
ヒューバート・サムリン、エリック・ゲイルズ、
ボビー・ブルー・ブランド、
メイヴィス・ステイプルスなど。
若手のラッパーは、名前を見ても
顔を見ても知らない人たち。
古い R&B にラップを乗せるという
試みは見事に成功しており、
ラッパーたちのレジェンドへの尊敬、
音楽が脈々と受け継がれて行く様子が
印象深く描かれている。
特典映像で スヌープ・ドッグ が、
DJ の重要性について語るのだが、
これも興味深い話だった。
彼は、何度も警察のお世話になっている
ようだが、音楽への愛は伝わってきたよ。

高齢の出演者の中の数名は、
この映画の撮影後に亡くなっており、
貴重なフィルムとなっている。

出来れば、スティーヴ・クロッパーにも
インタビューと演奏で出て欲しかったな。


★★★★☆








2019.7.28

アルキメデスの大戦

菅田将暉が、戦争を止めようとする
天才数学者を演じる。
それぐらいの知識で観た映画
『アルキメデスの大戦』。

戦艦大和が出来るまでに
こんなドラマがあったのか、と
見入ったが(単純)、エンドロールで
「本作は史実に着想を得たフィクション」
とテロップが出た。
いったいどこまでが史実で、
どこからがフィクションなんだろうと
気になり、調べてみた。

原作は、三田紀房(のりふさ)という
漫画家の「週刊ヤングマガジン」連載のコミック。
漫画だった!
主役の天才数学者・櫂 直(かいただし)は、
架空の人物だった。
しかし、時代背景や、山本五十六など実在の
人物、長門や大和、赤城など実在の艦船も
登場することから、実話なのかと
思わされるほどよくできていた。
櫂の変人ぶりは、あんまりないなと思ったけど。

監督・脚本・VFXは、『ALWAYS』や
『永遠の0』などの山崎貴。
すでに映像の素晴らしさは実証済み。
冒頭の大和と米軍戦闘機の
死闘は結構な迫力だった。
大和は、転覆後爆発を起こすが、
それら沈没の仕方も出来る限りの考証を
行いリアルに再現をしたとのことだ。

天才数学者・櫂は架空の人物とはいえ、
不沈戦艦大和を生み出した、
当時の背景、日本海軍の考えは、
映画に描かれているようなもの
だったのかも知れない。

以下ネタバレ注意。
山本五十六に説得され、
日本を戦争へと導く、
戦艦大和の建造を阻止すべく、
海軍に入る櫂。
大和の建造費の見積の偽造を見抜き、
建造中止にこぎつけるのだが、
大和の設計者、平山造船中将に
見込まれ、説得されてしまう。
その平山の、なぜ見積額を偽ったのか、
そして、なぜ大和を造らなければならないかの
スピーチが、妙に説得力があって怖かった。

日本は、アメリカに勝てないだろう。
しかし、日本人は、最後の一人になるまで
戦うだろう、戦争の止め方を知らないのだ。
確かにそういう側面は否定できない。
では、なぜ大和なのか・・・。
そこから先は劇場で。
戦争映画ではなく、ヒューマンドラマです。

ところで、映画の内容とは直接関係ないのだけど、
ちょっと気になったのは、
軍部のお偉いさんたちの年齢。
演じているのは皆60歳を超えた、
中には70歳を超えた役者さんたち。
小林克也、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろし。
どうも年を取りすぎてはいないだろうか。
山本五十六は 1933年には、49歳であったはずだが、
演じる舘ひろしは、今年69歳だ。
海軍大臣を演じる小林克也なんて、
今年79歳だからなあ。

撮影時(たぶん)25歳であったであろう
菅田将暉でさえ、子供っぽく見えてしまうので、
ある程度見た目に重さを出そうとすると、
そういう配役になってしまうのかもしれない。
まあ昔の年寄より今の人は若いということも
あるかもしれないしな。

軍部のお偉いさんの中では、
平山中将を演じた、田中泯が良い。
(この人も70歳超えてるけど。)
出演作をそんなにたくさん観たわけではないけど、
『たそがれ清兵衛』 『メゾン・ド・ヒミコ』
『永遠の0』など印象に残るなぁ。

真っすぐな軍人を演じる、
柄本佑(えもとたすく)も良かったなぁ。

その他、笑福亭鶴瓶、小日向文世などが出演。

これまた、映画の内容とは、関係ないけど。
山本五十六を演じる舘ひろし。
最近テレビで観る CM の軽いキャラが
邪魔をして、せっかくの五十六に
入り込めなかった。
どうも軽く、薄っぺらく見えてしまった。
こういうのは、俳優にとっては、
マイナスだと思うのだがどうだろう。
一方で、宝くじの CM に侍役で
出演する役所広司は、気にならない。
なぜなのか考えてみた。
役所広司は、あの侍を演じているが、
ハズキルーペの CM の舘ひろしは、
舘ひろしとして出演してしまっている。
もちろん、あの軽いキャラも演じているんだろうが、
あそこで、舘ひろしのイメージを壊して
しまっているんやないか、と思った。


★★★★☆








2019.7.30

岡本太郎の沖縄

ドキュメンタリー映画
『岡本太郎の沖縄』。

岡本太郎が、沖縄の写真集や
沖縄に関する書籍を出していることは、
知っていたが、以前、写真をチラッと
見たことがあり、特に興味を持っていなかった。

14年前初めて沖縄に行き、
いわゆる沖縄病にかかり、
移住まで考えたことがあった。
あの頃、沖縄の本を何冊か読んだので
太郎の『沖縄文化論〜忘れられた日本』も
買ったような気もする。
読みかけたら、ちょっと難しそうだったので
止めたような記憶があるが定かではない。

ところで、私は岡本太郎の作品は、
(たくさん知っているわけではないけど)
あまり好きではない。
渋谷駅に展示されている『明日の神話』など
何が良いのか全く分からない。
しかし、一点だけ完璧だと思う作品がある。
それは「太陽の塔」だ。
子供のころに実物を目の当たりにした
影響があるのかもしれないが、
「太陽の塔」はその建造のストーリーも
含めて素晴らしいと思う。

さて、映画『岡本太郎の沖縄』。
「太陽の塔」以外、そんなに太郎に
興味のなかった私を映画館
(東京都写真美術館ホール)まで
行かせたのは(って、会社から歩いて行けるけど)
この写真だ。



この大きさでは分からないが、
かなり強力な写真だ。
太郎は、1959年と1966年に沖縄に
行っているが、この写真は、1959年のもの。
彼女は、沖縄の久高島(くだかじま)の
「ノロ」と言われる、祭事を司る最高位の
司祭主で、言ってみればシャーマンのような
存在だ。

久高島の滞在日数は、二度にわたる沖縄滞在
全日程の中のほんの数日なのだが、
映画では、久高島のことが半分ほど
占められているように感じた。

それは、監督・葛山喜久(かつらやまよしひさ)が、
「写真の久高ノロに導かれて映画を作った」と
書いていることと無関係ではないだろう。

おそらく太郎も久高島に惹かれたのは
間違いないようで、1966年の再訪は、
島で12年に一度行われる女だけの神事
「イザイホー」に合わせている。

映画では、やがて最高職のノロが
不在になり450年続いた「イザイホー」が
続けられなくなった現実なども描いている。

下記は、映画のオフィシャルサイトにある紹介文である。

芸術家・岡本太郎は、1959年と
1966年に沖縄へ旅に出た。
彼の究めたかったものは、日本人とはなにか?
自分自身とは何かの答えを求めることだった。
その旅の一番最後にたどりついたのが、沖縄であった。
岡本太郎は、「沖縄とは、私にとって
一つの恋のようなものだった」と言うほど、
全身、全存在をこの対象にぶつけた。
岡本太郎は、自ら沖縄へ溶け込み、
そして自分自身と出逢ったのだ。
岡本太郎の沖縄は、
今の私たちに何を投げかけ、
今の私たちとどうつながるのか?
それを確かめに行くドキュメンタリー映画である。


映画を見終えての私の感想は、
「太郎は、沖縄で何を見たんだろう。
何を感じたんだろう」という疑問だった。
映画の中で映し出される、
太郎が撮った写真はどれも素晴らしい。
力強い、当時のありのままの沖縄の
人々を捉えていると感じた。
が、映画は、その太郎の写真を使った、
太郎ではない人の作品だと思った。
太郎が作った映画ではないので、
これは、当然と言えば当然のことなのだが、
私はタイトル通り「岡本太郎の沖縄」が
観られると期待していたので、
ちょっと当てが外れた。

「太郎の沖縄」を知るには、
写真集を買って、
『沖縄文化論〜忘れられた日本』を
読むしかないか。
そして、この映画を観ればかなり深まるだろうな。

また、沖縄に行きたくなった。
今度は、久高島にも行こう。


★★★▲☆





2019.8.11

ブロードウェイ・ミュージカル
"CHICAGO"


4カ月ほど前、偶然、深夜にテレビで
米倉涼子のドキュメンタリーを観た。
ブロードウェイ・ミュージカル『シカゴ』で、
米倉が主演を務めるのだという。
米倉が、ミュージカルに出演していることさえ
知らなかったが、ブロードウェイ主演抜擢は、
今回が3度目(日本人女優史上初)。
その米倉に密着したドキュメンタリーだった。
米倉は、今年女優生活20周年。

ミュージカルは、過去にいくつか観たものの
あまり好きにはなれず、
今まででホントに良かったと思えるのは、
一昨年に観た『BEAUTIFUL
The Carole King Musical』ぐらい。
映画のミュージカルも、そんなに好きではないけど、
舞台よりは、良かったと思えることが多い。
ちなみに映画版『シカゴ』(2002年)観ていない。

そんなミュージカルをさほど好きではない私が、
米倉のドキュメンタリーを観ていて、
断然『シカゴ』を観たくなり、その番組を
観ながら、その場でネットでチケットを申し込んだ。
なぜ、そんなに観たくなったのかは、
残念ながら覚えていないのだが、
米倉の『シカゴ』に懸ける姿に心を打たれたんだろう。

今日、その『シカゴ』を観てきた。
東京公演は、8月7日から18日まで、
渋谷のシアターオーブにて。

(たぶん)アメリカ人の中に混じって、
まったく引けを取らない米倉は、
素晴らしいと思った。
背も高いし、スタイルも良い。
(元々がモデルでデビューだからね。)
おまけにダンスも歌もOK。
今年44歳とは思えない。
その分、きっと物凄い努力をされて
いるのだろうな。

ストーリーは、1920年代のイリノイ州シカゴが舞台。
実話に基づいているらしいが、
2人の悪女が登場する。
2人とも殺人犯でかなりの悪党。
米倉演じるロキシーの夫、エイモスは、
どうしようもないお人好し。
どうして、この2人が結婚したのか、
そこが知りたいね。

もう1人の悪女、ヴェルマ・ケリー役には、
ヴェルマ役では、史上最多出演数だという
アムラ=フェイ・ライト。
確かに物凄く、堂にいった演技だった。

冒頭、ヴェルマが登場し、少し話したのだが、
マイクを着けていないように見えた。
しかし、音声はスピーカーから出ている。
オペラグラスでよくよく見てみると、
頭から、おでこに何やら垂れ下がって
いるように見えた。
どうやら、あれが今どきのマイクのようだ。
あんなところにあって、あれだけクリアに
声を拾うということは、かなり高性能な
マイクなんだろうな。

バンドは、オケピットではなく、ステージで演奏。
コンダクター+14人。
編成は、ピアノ×2、ヴァイオリン、トランペット×2、
トロンボーン×2、サックス(クラリネット)×3、
チューバ、バンジョー、ベース、ドラム。
コンダクターとピアノのひとりは、
外国人に見えたが、ほかのメンバーは、
日本人ように見えた。
コンダクターには、少しセリフもあった。

日本公演(東京・大阪)のチケット
4万5千枚は、発売早々に完売したらしい。
私が予約したのは、4カ月前だけど、
2階席(3列目)だったぐらいだからね。





--- CAST ---
米倉涼子 [ロキシー・ハート]
アムラ=フェイ・ライト [ヴェルマ・ケリー]
ピーター・ロッキアー [ビリー・フリン]
トッド・ブオノパーネ [エイモス・ハート]
ジェニファー・フーシェ [女看守ママ・モートン]
C・ニューカマー [メアリー・サンシャイン]
アンドリュー・エッカート [フレッド・ケイスリー]
テイラー・コリンズ [ドクター、判事]
テイラー・P・コナント [ジューン]
セス・ダナー [ハリー、マーティン・ハリソン]
ローレン・ジェメリ [リズ]
アリアン・ケデル [アニー]
アレクサ・ジェーン・ルイス [ハニャック]
ディオン・リドリー [廷吏、書記官]
エヴリン・クリスティーナ・ドン [ゴー・トゥ・ヘル・キティー]
コルト・アダム・ワイス [フォガティ巡査長]
マシュー・ウィネッジ [陪審員]
モニカ・ウッズ [リズ]
コーリー・ライト [アーロン]
クリストフ・キャバレロ [スイング、ダンスキャプテン]
グラント・ペイラー [スウィング]
チャリティ・ヴァン・タッセル [スウィング]

--- CREATIVE ---
ジョン・カンダー&フレッド・エッブ [音楽/脚本・作詞]
ボブ・フォッシー  [脚本/初演版演出・振付]
ウォルター・ボビー  [演出]
アン・ラインキング [振付]
ジョン・リー・ビーティ [舞台美術]
ウィリアム・アイヴィ・ロング [衣裳デザイン]
ケン・ビリングトン [照明デザイン]
スコット・レーラー [音響デザイン]
ラルフ・バーンズ [編曲]
ロブ・フィッシャー [ボーカル・アレンジメント]
デイヴィッド・トンプソン [脚色]
バリー&フラン・ワイズラー [製作]

@ 東急シアターオーブ(渋谷)

--- SCHEDULE ---
2019.7.1(月)- 7.14(日) アンバサダー劇場(ニューヨーク、ブロードウェイ)
2019.8.1 (木)〜8.4 (日) オリックス劇場(大阪)
2019.8.7 (水)〜8.18 (日) 東急シアターオーブ(東京)



THE MUSICAL CHICAGO





2019.8.17

いただきます
みそをつくるこどもたち


妻の仕事関係のイベントで
ドキュメンタリー映画
『いただきます みそをつくるこどもたち』を観てきた。
この映画は、2017年の公開だが、
いまだに全国各地で自主上映会が
開かれている作品で、
今日のイベントもそのひとつだった。

福岡県の高取保育園では、
1968年の開園以来「食は命なり」をモットーに
食育に取り組んできた。
その結果、行きついたのは、
玄米、手づくり味噌を中心とした「和食」。
保育園で消費される味噌は、月に100kg。
そのすべてを5歳児が自分たちで作る。
もちろん、大人のサポートがあってのことだが、
驚いたのは、5歳児に包丁まで使わせる。
自分で食べるものは、自分で作る。
自分の体は、自分で守る。
その理念の徹底がなされている。
そして、自分で作ったものは、美味しいのだ。
もちろん、玄米も野菜も無農薬。
おかげで、アトピーのひどかった子供は、
数カ月から半年で症状の改善をみるという。

味噌は、世界で一番がんを防ぐ食品だという。
二番は、インドネシアのなんとかという食品で、
三位は、納豆。
おそるべし、日本の発酵食品である。

しかし、戦後の食生活の欧米化で
私たちは大切なものを見失ってしまったようだ。
欧米化と豊かになることを勘違いした日本人は、
本当の豊かさを失い、大きな誤りを犯したようだ。

民族は、それぞれ長い年月の食生活が
DNA に組み込まれている。
日本人には日本人の食生活が一番合っている。
そこに急激な食の欧米化が進めば、
しわ寄せが現れても不思議ではない。
欧米化だけはなく、この100年の間に
過去になかったほどの食品添加物を
摂取したことも日本人の不健康の一端だろう。

何より、こんな保育園があることが素晴らしい。
子供たちは、みな健康で穏やかで、
地域でインフルエンザが流行って
学級閉鎖があっても、高取保育園では
ほとんど休む子供がいないという。

私たちは食べたもので出来ている。
何を食べるかは、どんな人間になるかに
直結しているのだと思う。

未来のために、こういう保育園が
増えることを願って止まないが、
自分の食生活も見直す必要があると思った。
肉を減らし、野菜を増やすことぐらいなら、
日々の意識で何とかなると思うのだが、
誘惑も多いので、悩ましい。

映画は、寄付金のみで作られたというのも
素晴らしい。
企業がスポンサーにつくと、
何かとやりにくいことも多いだろうからね。

ナレーションは、石田ゆり子。
全編に流れ、エンディングテーマにもなっている、
宮澤賢治の『星めぐりのうた』が印象的。
エンディングテーマでは、坂本美雨が
その優しい歌声を聴かせてくれる。


高取保育園では、園児全員が竹馬に乗る。
全員かどうかわからないけど、
逆上がりをし、自分の背より高い障害物を
乗り越え、登り棒を2メートルぐらい(?)登る。
余談だが。
運動が苦手な私が、この保育園に
通っていたら、違った人生があったのかな。
5歳の時点で、挫折を感じたのかな。


いただきます みそをつくるこどもたち  オフィシャルサイト


★★★★★








2019.8.22

カーマイン・ストリート・ギター
CARMINE STREET GUITARS


日本語には「精魂を込める」という言葉があるが、
日本人の物作りが世界に評価されてきたのは、
まさに「魂」を込めて作ってきたからだろう。
いや、正確に言うと魂を込めて仕事をし、
そのモノ自体にに魂を吹き込んできたのだ。
しかし、魂を吹き込めるのは、日本人だけじゃない。

今日観た映画は、アメリカのギター職人、
リック・ケリーのドキュメンタリー。
リックは、NYのグリニッジ・ヴィレッジにある、
「カーマイン・ストリート・ギター」という
ギターショップで携帯電話もパソコンも
持たずにギターを作り続けている。
リックのギターの材料は、
ニューヨークの建物の廃材。
この20年、廃材をギターにして、
新たな "魂" を吹き込んできたのだ。

普通ならギターに使わないだろう、
節の付いた木やハンマーで傷の付いた木なども
そのまま使う。
人の顔のしわがその人を表わすように、
ギターの傷は、ニューヨークの歴史を表わしているのだ。

映画では、リックのギターに魅了された
ギタリストが大勢登場する。
私が知っているのは、ビル・フリゼール、
マーク・リーボウ、チャーリー・セクストンぐらいだったけど。
ビル・フリゼールが弾く(ビーチボーイズの)
"Surfer Girl" がとても美しく音色も素晴らしい。
ビルが弾き終えたあと、リックが言う。
「そのギター、もっと高く売ろ。
ビル・フリーゼルが弾いたギターやからな」と。

NY に現存する最古のバー、マクソリーズ・オールド・
エール・ハウスからもらってきた廃材で作った
テレキャスターをチャーリー・セクストンが弾いた。
新品とは思えないようなまろやかなトーン。
それもそのはず、1854年に建てられた建物の
木材だ。
(チャーリー・セクストンは、80年代、
アイドル的だったような印象があるが、現在は
ボブ・ディランのバンドのギタリストだって。)
映画は、リックの一週間を追うように
構成されているけど、実際の撮影は何カ月も
かかっているんだろう。
廃材をもらってきてから、
ギターが数日で完成するはずないもんな。

リック・ケリーのこともカーマイン・ストリート・ギター
という店の名もこの映画を知るまで、
私は知らなかったのだけど、これは、
ギター好きばっかり登場する、
ギター好きのための映画だ。
リックの朴とつな人柄も良い。
ギター作りが好きで好きでしょうがないのが
伝わってくるよ。

弾いてみたいけど、弾いたら
欲しくなってしまいそうやな。
ネットで探したら、オークションで1本だけ
48万円で売りに出てた。(即決価格 58万円)
これはたぶん、廃材ではなさそうやけど。

シンディ・ヒュレッジというパンキッシュな
若いオネエチャンが、リックの弟子なのだが、
この人がまたええ味出してる。
リックの後を継いで、良いギターを作って
くれそうです。

テレキャスター万歳!





★★★★☆





2019.9.8

愛と追憶の日々
Terms of Endearment


少し前に映画『愛と追憶の日々』の
話を聞いた。
アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞、
主演女優賞(シャーリー・マクレーン)、
助演男優賞(ジャック・ニコルソン)を
受賞した1983年の作品だが、
親子関係を興味深く描いているという話だった。

私は観たことがなかった上に
タイトルからメリル・ストリープ、
ロバート・レッドフォード主演の
『愛と哀しみの果て』と混乱していた。
こちらも、アカデミー賞作品賞を
受賞しているので、余計に間違いやすい。

それはさておき、『愛と追憶の日々』。
気になっていたので、ようやく鑑賞した。
Amzon プライムビデオで、199円。

シャーリー・マクレーン、
デブラ・ウィンガーが主演。
そのほか、ジャック・ニコルソン、
ジェフ・ダニエルズらが出演している。

シャーリー・マクレーンは、撮影当時
58〜59歳だと思うが、美しいね。

娘役のデブラ・ウィンガーは、
これまた『愛と〜』シリーズ
『愛と青春の旅だち』で、
アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた人。
『愛と青春の旅だち』の次の作品が
『愛と追憶の日々』だ。

彼女達の隣の家に住む
元宇宙飛行士を演じるのが、
ジャック・ニコルソン。
やはり、クセが強い男を演じております。

あと、子役が素晴らしかったね。

この映画の話をしてくれた人は、
きっともう何年も前に観たんだろう。
聞いた話とちょっと違っていたけど、
人それぞれ心に残るポイントも
違うもんなんだろうな。
そして、時間が経つほどにそのポイントが
強調される記憶になっていくんやないやろか。
そんな気がした。

原題の "Terms of Endearment" は、
「愛情の言葉」「愛情の表現」という意味のようだ。

そして、1996年にこの映画の
続編『夕べの星』が作られている。
もちろん、シャーリー マクレーン、
ジャック ニコルソンが出演している。
こちらも観てみたい。


★★★☆☆





2019.9.13

ブルーノート・レコード
ジャズを超えて

BLUE NOTE RECORDS: BEYOND THE NOTES


ジャズの名門「ブルーノート・レコード」の
ドキュメンタリー映画を観てきた。
思っていたより、結構お客さんが
入っていたけど、ほとんどおっさんでした。
若者と女性はちらほら。

ブルーノート・レコードの作品は、
今までにたくさん聴いてきたけど、
会社を誰が作ったのか、
どんなストーリーがあったのかは、
全く知らなかった。

1939年、ブルーノート・レコードを
設立したのは、アルフレッド・ライオンと
フランシス・ウルフという2人の
ドイツ系ユダ人だった。
今でいうインディーズ・レコードのようなもので、
けっして資本があったわけではなかった。

ナチスの迫害から逃れたユダヤ人が、
アメリカであからさまに人種差別を
受けていた黒人(アーティスト)と組んで
自由と解放を表現したというのは、
それだけで、物語になりそうな話や。

アルフレッドは、根っからのジャズ・ファンで、
もともとは自分の趣味(鑑賞)のために
録音をしたかったのだという。
それが、発展してレコード会社に
なったのだけど、録音時には、
アーティストに完全な自由を提供したという。
唯一、新しい音楽(曲)を
求めたようだが、世の中に受けいられるよう、
つまり、売れるようなモノを作れというような
要求は一切なかったという。
アルフレッドとフランシスは、
アーティストから、絶大な信頼を得ていたようだ。

当時でも、大手のレコード会社は、
セールスを念頭に置いて音楽を
作っていたようだが、
ブルーノート・レコードは違った。
アルフレッドは、セールスなど気にせず、
レコードを作り続けたのだ。
それこそが、ブルーノートが
ブルーノートである所以だと思った。
アーティストは、セールスのことなど
考えなくてよい。
それはビジネスマンの仕事だろう。

そして、結果、ブルーノートは
1966年にリー・モーガンの
『ザ・サイドワインダー』と
ホレス・シルヴァーの
『ソング・フォー・マイ・ファーザー』という
2作のビッグヒットを生み出す。
それが、ブルーノートの運命を変えてゆく。
販売業者からの「もっとヒット作を作れ」と
いう圧力が始まったのだという。

映画は、ハービー・ハンコック、
ウェイン・ショーター、ルー・ドナルドソン、
ノラ・ジョーンズ、ロバート・グラスパーなどの
インタビューとブルーノートに残された
名曲、名演で進んでゆく。

邦題で「ジャズを超えて」と訳された
「BEYOND THE NOTES」は、
リオーネル・ルエケ(Gt)が、
ハービー・ハンコックのことを
「彼は音符を超えている」と言った
言葉から取られている。

私が驚いたのは、その写真。
50〜60年代、スタジオでの演奏風景を
撮影したのは、フランシス・ウルフで
あったらしいいのだが、
これは、プロのカメラマンだろうという
写真ばかりで、実際、その多くが
レコードのジャケットに使われている。
調べてみると、フランシスはすでに
ドイツでカメラマンとして仕事をしていた後に
アメリカに渡ったようだ。納得。

それにしても、暗い録音スタジオの中で、
どうしてあんなにきれいに写真が撮れたのだろう。
今のようなデジタル・カメラなんてない時代だ。
映画の中で、「(フランシスが)
16分の1秒で撮った」と誰かが言う
シーンがあったけど、
16分の1秒のシャッタースピードで、
あんな写真は絶対に撮れないよ。
その秘密が知りたい。

フランシスが撮った、ブルーノートの
アーティストの写真集ってないんだろうかと
ググってみたら、日本版は出ていないが、
Amzon.com で何冊も発見。
中古だけど、「Blue Note」というタイトルの
Francis Wolff の写真集を注文した。
49.94ドル。(新品は、814.98ドルもするぜ。)


★★★★☆





今年6月の TEDESCHI TRUCKS BAND の
ライヴのアンコールで、
"Statesboro Blues" にゲスト参加した
ドン・ウォズ(B)って、今の
「ブルーノート・レコード」の社長だったのね。
知らなかった。
あの時は、本作のジャパン・プレミアがあって
来日していたみたい。


Official Site
ブルーノート・レコード ジャズを超えて




トーク・トゥ・ハー
HABLE CON ELLA / TALK TO HER


先日、チリ出身の カミラ・メサ の
CD に収録されている、
『Cucurrucucu Paloma(ククルクク・パロマ)』
という曲について調べていたところ、
『トーク・トゥ・ハー』というスペイン映画の中の
ライヴ・シーンで カエターノ・ヴェローゾ が
歌っていた曲だということが分かった。

『トーク・トゥ・ハー』は、2003年に
日本で公開されており、私は
ロードショーで観たのだが、
カエターノ・ヴェローゾ を知った映画である
こともあって、記憶に残っている作品だった。

『ククルクク・パロマ』のことが、きっかけで
急にもう一度観たくなったので、
先日、DVDで鑑賞した。

交通事故に遭い昏睡状態の美人女性と、
その看護をする男性看護師の物語で、
途中、ショッキングな事件が起こる。
それぐらいのことしか覚えていなくて、
結末がどうだったかなど、
さっぱり覚えていなかった。
16年も経つと、
もう、初めて観るのと変わらない。

見終えてから、「そういえばそうだった」とは、
言えるけど、もう一度も観なければ、
絶対結末を思い出せなかったと思う。

昏睡状態の女性が、本当に美しい。



写真の手前の人ね。
レオノール・ワトリングというスペインの女優。

彼女に恋をする看護師ベニグノの
気持ちも分からなくはないが、
その愛情は、偏狭というか異常。
そうなった背景も描かれており、
哀しい男の話と言ってしまえば
それまでだが、やはり、独りよがりでしかない。
恋心は今や、ある線を超えた瞬間に
「ストーカー」という犯罪になってしまう。
本作では、彼の異常さが、
結果的に彼女を救うという辺りが、
脚本の妙である。
アカデミー賞脚本賞を受賞。
監督・脚本は、ペドロ・アルモドバル。

ベニグノに、共感は出来ないし、
ハッピーになれる映画ではないが、
良い作品だと思う。


★★★★☆





2019.9.15

ロケットマン
ROCKETMAN


最近は、ホントにミュージシャンを描いた映画が
増えたような気がするけど、気のせいかね。
以前もあっただろうけど、この数年、
特に増えたような気がするな。
さて、今日はそんな映画の一本、
「ボヘミアン・ラプソディ」の大ヒットも新しいが、
またもやイギリスのアーティスト、
エルトン・ジョンの半生を描いた映画を観てきた。

私は特にエルトン・ジョンのファンというわけではなく、
彼の曲も数えるほどしか知らないけど、
「Your Song」は、何度も演奏したことがあるし、
好きな曲の1曲だ。
熱烈なファンでなくても成功したミュージシャンの
半生を描いたと言われれば興味がある。

地味でシャイな少年、レジナルド・ドワイトが、
どうやって、エルトン・ジョンになっていったのか。
エルトン・ジョンという名前は、
どうやって生まれたのか。
そして、そのエルトンの苦悩が描かれている。

レジナルドは、両親が不仲で、
父親にハグをされたことさえない、
愛に飢えた環境で育った。
言い古されたことではあるが、
どんなにお金を得ても、名声を得ても
人は幸福にはなれない。
いつも愛されることに渇望している。
それが、芸術を生み出す一つの
原動力でもあるのだけど。

レノン&マッカートニーのように、
キャロル・キングとジェリー・ゴフィンのように
エルトンには、バーニー・トーピンという
相棒(作詞家)の存在があった。
結局、バーニーが一番の親友で、
エルトンの理解者だったんではないかと思った。
いまだにコンビを組んでいて、
50年間一度もけんかをしたことがないと、
エンドロールに出るけれど、劇中、
「どう見たってそれけんかでしょ」
というシーンがあったよ。

「ボヘミアン・ラプソディ」が、
レコーディングシーンや、
曲の誕生秘話のようなシーンが多く、
楽しめたのに対して、本作では、
そういうシーンは、ほとんどない。
唯一「Your Song」が生まれるシーンが
あるくらいだ。

両親との関係、バーニーとの関係、
ジョン(マネージャー)との恋愛と
その苦悩など、ヒューマンドラマとして、
見所はあるが、エルトン・ジョン自身が
本作の製作総指揮にあたっているところを
思うと、どうも壮大な「俺なんか」を
見せられた気がしないでもない。

「俺なんか」というのは、
誰かの、こんなひどい目に遭ったよという話を
聴いた別の人が「それやったら、
俺なんかなぁ〜」と、自分の方が
もっとひどい目にあった、
こんなに苦しかった、と自慢するかのように
語ることを言う。
いや、たぶん世間では言わないけど、
私が若いころ、仲間内で誰かが
そんなことを言い出した時に
「始まったで。俺なんかコーナー」と
冷やかしたものだ。

エルトンが、不遇な家庭環境に育ち、
同性愛者であったことでも苦労したのは、
よくわかったけど、どうも
延々「俺なんかなぁ〜」を見せられたように
思う私は、屈折しているだろうか。
これが、エルトンの死後、作られた映画だったら、
印象も変わったかも知れない。

素晴らしいのは、エルトンを演じた
タロン・エジャトン(Egerton:日本では
エガートンと表記されているが、
エジャトンと発音するようだ)。
劇中、吹替えなしで歌っているのだ。
ミュージカル仕立てなので、
他の俳優たちも歌うけど、皆さん上手い。

先月、プロモーションで来日した
デクスター・フレッチャー監督と
タロン・エジャトンが、朝のテレビ番組
「スッキリ」に生出演していたのを偶然観た。
その時、春菜が「エルトンじゃねーよ!」って
言っていたのを、映画の途中で思い出し、
しばらくエルトン(タロン)が春菜に
見えて困ったよ。

映画の中では、エルトン・ジョンという名は、
バンド仲間だったエルトン・ディーンと
ジョン・レノンから取って付けたように
描かれているけど、
Wikipedia には、エルトン・ディーンと
「ロング・ジョン・ボルドリーの2人の
名前から取った」と書かれている。
どっちが本当なんだろう。
(ロング・ジョン・ボルドリーは、
イギリスの60年代のブルース・マン。
エルトンはデビュー前、バックバンドにいた。)

彼は、アル中でヤク中でもあったけど
エンドロールで「禁酒して28年」と
テロップが流れる。
薬物のことには、触れていなかったのが
気になった。


★★★▲☆







プライベート・ウォー
A PRIVATE WAR


本作のことを知るまで
メリー・コルヴィンのことは、知らなかった。
メリー・コルヴィンは、戦地を
取材する戦場記者。
そのメリーを描いた映画『プライベート・ウォー』。
メリーを演じるのは、ロザムンド・パイクだ。

イギリスの The Sunday Times の
特派員としてスリランカの内戦を
取材していた 2001年、メリーは
負傷し左目を失明する。
その後、PTSD に苦しみながらも、
イラク、アフガニスタン、リビア、シリア
など戦場の取材を重ねていくのだが、
その姿は、私には異常にしか映らない。

『ハート・ロッカー』や『アメリカン・
スナイパー』で、戦場中毒のような
症状が描かれていたような
覚えがあるが、メリーの場合も
危険であればあるほど、そこに行って
現実を報道しなければならないという
使命感に駆られているかのように見えた。

と同時に、多くの民間人が巻き込まれ、
何年間にも渡り、何十万人も人々が
犠牲になり続けている、その戦いは
一体誰が、何のために、どこに向かうために
続けているのだろうと、改めて
その無意味さと人類の愚かさを思った。

2012年、メリーはシリアのホムスで
BBCやCNNなどに生放送出演し、
その数時間後に死亡する。
享年56歳。

映画には描かれていないが、今年1月、
シリア政府がメリー暗殺の罪を認め、
彼女の家族に約3億ドルの損害賠償が
支払われることになったらしい。
暗殺・・・、
これまた凄い話や。

黒い眼帯姿が、カッコイイと
思ってしまうのは不謹慎か。


★★★★☆








2019.9.16

記憶にございません!

三谷幸喜監督作品といえば、
私は『ザ・マジックアワー』が今までで
一番面白く、次いで『清須会議』、
『ステキな金縛り』が、まあまあ面白かった
覚えがあるのだが、前作『ギャラクシー街道』
(2015年)は、ホントにくだらなくて
面白くなかった覚えがある。

最新作『記憶にございません!』は、
中井貴一演じる総理大臣が
記憶喪失になるという喜劇で、
予告編を観た時から面白そうだと
期待していたが、本作で
『ギャラクシー街道』の汚名は返上できただろう。
そう思えるほど、面白くて楽しめた。かなり。

毎度、出演陣は豪華で、中井貴一のほか、
ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、
佐藤浩市、小池栄子、斉藤由貴、寺島進、
木村佳乃、吉田羊、田中圭らが脇を固める。
総理大臣の義理の兄役の人が
ガットギターを弾くシーンがあって、
この人かなり弾けるぞ、と思っていたら
ROLLYだった。
全然気づけなかった。

ただ、面白いだけでなく、
「人は生まれ変われるんだ」
「違う自分になれるんだ」という
真面目なメッセージも感じたよ。


★★★★▲







台風家族


今年6月に公開予定でだった映画『台風家族』。
新井浩文が2月に逮捕・起訴されたため、
6月の公開は延期となった。
公開を望む声と、関係者の熟考の末、
今月、3週間だけの期間限定上映となった。
このあたりのいきさつと公開に向けてのメッセージは、
オフィシャルサイトに書かれているので、
ご興味のある方は、ご一読いただきたい。

台風家族 オフィシャルサイト

映画は当初の予定通りで
新井浩文の登場シーンも再編集なしということだ。
さすがにポスターに彼の写真と名前はないけどね。

さて、本作の感想だが、途中というか
後半のあるシーンまで、凄く良かった。
ストーリーの展開も先が読めず、
中だるみすることもなく、
まあ演出に好き嫌いは、多少あるし、
突っ込み所もあるけど、それでも
"それが出てくるシーン" までは良かった。
ネタバレになるので書かないけど、
そのシーンで一気に冷めてしまった。
それから先は、笑えない面白くもない
コントのようだった。
なんで、あんなことにしてしまったかね。
ネットのレビューを読むとやはり同様の
感想を持っている人がいるので
そう感じたのは私だけじゃなさそうだ。

コメディなら、最初からコメディらしく
やれば違ったのに、変にシリアスだから
コメディにもなりきれず、
惜しいというか、残念。

このちょっとした不満は、
市井昌秀監督の『箱入り息子の恋』でも
感じたので、何かが共通しているのかな。

主演の草なぎ剛の演技を絶賛しているレビューが
いくつか見られたけど、特に良いと思えないな。
『凪待ち』の香取慎吾には全然及ばない。

その他の出演は、新井浩文、MEGUMI、
中村倫也、藤竜也、榊原るみ、尾野真千子、
若葉竜也など。

新井浩文はねぇ。
気にせずに観れると思ったけど、
ダメだったね。
彼が登場して、しばらくは、
顔が映るたびに事件のことが頭に浮かんで、
映画に入り込めなかった。
それにしても、こんな役までもらえる
ようになったというのに、
ホントに馬鹿なことをしてしもたもんや。


★★★☆☆







ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD


IMAX で鑑賞。
レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット、
そして監督は、クエンティン・タランティーノ。

不思議なことにクエンティン・タランティーノの
作品を私は1本も観ていない。
『パルプ・フィクション』はもしかしたら、
ビデオを借りて観たような気もするけど、
記憶が曖昧で観ていいないような気もする。

舞台は、1969年のロサンゼルス、ハリウッド。
ディカプリオが演じるのは、ちょっと人気の
落ちてきたドラマ俳優、リック・ダルトン。
そのリックの友人でもあり、
スタント・マン兼身の回りの世話をする
クリフ・ブースにブラッド・ピット。
役柄もあるかも知れないけど、
ディカプリオは、ちょっと中年のおっさんに
なってきたけど、ブラピはホンマにカッコええ。
こういう人をスターっていうねんなと思う。

ハリウッドを描いているということで、
スティーブ・マックイーン(似てる!)や
ブルース・リー、シャロン・テートが登場します。
ほかにも実在の人がいるんだろう。

2人の主演のほか、
マーゴット・ロビー(シャロン・テート役)
アル・パチーノ、ダコタ・ファニングらが出演。

詳しいこの時代の背景と映画界のことを
知らないと本当の意味で本作を
理解することは、難しいのだろう。
でも、160分の長い映画にもかかわらず、
一度も中だるみすることなく、
集中して観られた。
後半は、ちょっとバイオレンス爆発で
痛いけど。

60〜70年代のポップな音楽、
ファッション、デザインが好きな人は、
それだけでも楽しめると思う。


★★★★☆





追記。
映画のネタバレ含む。

ディカプリオ演じるリック・ダルトンの
隣の家に ロマン・ポランスキー監督と
シャロン・テート夫妻が引っ越してくる。
最後の最後まで、リックと隣人夫妻は、
接点がなく、ラストシーンで初めて
リックとシャロンは挨拶する。
でも、映画では前半から、夫妻が
登場するので、どういう関連が
あるんだろうと思っていた。

エントリーを全部書いた後で、
色々ググっていると、分かったことがある。

1969年8月9日、シャロンは自宅で
友人らと自宅でパーティ中に
チャールズ・マンソン率いるカルト教団に
襲われ惨殺された。
シャロンは、妊娠8カ月だった。

映画では、牧場に暮らす「ファミリー」と
呼ばれる数十人からなる集団が登場する。
その指導者が、チャールズと呼ばれているが、
映画の中には登場しない。

そのファミリーの3人が、チャールズの指示で
ポランスキー監督夫妻の家を
襲うつもりでやってくるのだが、
映画では、リック・ダルトンに出会い、
リックの家に押し入るという展開だった。

つまり、ポランスキー監督夫妻の家は
襲われず、シャロンも無事なのだ。
映画の中では、シャロンを救い、
リックとクリフにカルト教団を退治
(しかもかなり強烈な)させたのだな。
ちょっと理解が深まった。





2019.9.17

ゲット・アウト
GET OUT


日本では、2017年に公開された映画
『ゲット・アウト』。
公開当時、興味があったけど、
見損ねていたので先日、ビデオで鑑賞した。

観終えると荒唐無稽なストーリーで
リアリティなんてないし、
重要なシーンで突っ込み所もあるけど、
スリラーというよりは、サスペンスとして
まあまあ楽しめた。

黒人の青年が、白人の彼女の
実家に行って、過剰な歓迎を受ける中、
なんか違和感を感じ始める。
黒人の使用人が2人いるけど
明らかに気持ち悪い。
その辺りは、引き込まれていったけど、
最後は、ちょっとぶっ飛びすぎな
展開でした。

主役のクリスを演じる、
ダニエル・カルーヤがいい。


★★★▲☆








2019.9.28

ある船頭の話

オダギリジョー長編初監督作品
『ある船頭の話』を観てきた。
主演は、柄本明。

「柄本明が出ているだけで
その映画の質が上がる」という
レビューを読んだが、
確かにそうかもしれない。
時代劇で侍役の柄本明の
切腹シーンが凄まじくて、
何の映画だったか覚えていないのに、
それだけ覚えているもんね。
(調べてみたら、蒼井優、岡田将生
主演の『雷桜』だった。)

さて本作、始まってすぐに
映像の美しさに魅了された。
ほとんどのシーンが美しい。
景色だけではなく、
人が映っていても美しい。
こんな映画はあんまりない。

これは、誰が撮影したのかと
終わってからチェックしてみたら、
クリストファー・ドイルという
超有名な撮影監督だった。

構図が素晴らしく、
この映画のシーンを集めて
写真集が出来ると思ったほど。
絵になる。
撮影は、新潟県で行われたようだが、
日本人でない人が撮ったので、
あんな風に撮れたのだろうか。

柄本明は、もちろん素晴らしい。
そして、川島鈴遥(りりか)。
始めて観たが、これまた
素晴らしい女優さんだ。
2002年生まれとあるから、
撮影時には、16歳ぐらいか。
本作がデビュー作ではないが、
100人以上の中からオーディションで
選ばれたというのも納得。

それから、伊原剛志、浅野忠信、
笹野高史、細野晴臣、永瀬正敏、
蒼井優、草笛光子、橋爪功など
豪華な脇役が次々出てくる。
しかし、派手な感じはしないのがいい。

監督だけではなく、脚本もオダギリ。
10年も前に書いたということだから、
ずっと温めてきたんだろうな。
オダギリは、ほかの役者さんと
一味違うと思っていたけど、
今後、監督としても期待できると思う。

山間の村の渡し船の船頭の物語で、
時代は、明治の終わりか大正ぐらいか。
橋の工事中で、橋が完成すると、
船頭は職を失うことになる。
新しい便利なものが出来ると、
古い役に立たないものは捨てられていく。

ちょっとファンタジーも交えた、
哀しく美しい話だ。

音楽も良かった。
ティグラン・ハマシアンという
アルメニアのジャズピアニストが担当。

ちょっと残念だったのは、村上虹郎
(UAの息子らしい)が、出番も多く、
重要な役なのだが、柄本明や
川島鈴遥に比べて、どうも良さが
分からなかったこと。
それと、橋が完成した後のある冬の日、
橋を渡る人の数が、ちょっと山間の村にしては、
多すぎるんちゃうかと不自然に感じだことね。

でもこれは、しばらくしたら、
もう一度観たい。


★★★★▲







ラスト・ムービースター
THE LAST MOVIE STAR

時間つなぎのために観た映画
『ラスト・ムービースター』。
予備知識なく、期待もなかったが、
これが良かった。

主演のバート・レイノルズが演じるのは、
ヴィック・エドワーズという
落ち目になった昔の映画スター。
映画が始まって、「あれ、この人
ヴィック・エドワーズっていう
名前やったっけ?」と一瞬、
変な錯覚に陥ってしまった。

ヴィックの所にある国際映画祭から
招待状が届くのだが、クリント・
イーストウッドやロバート・デニーロ、
ジャック・ニコルソンも受賞したと聞いて
LA からナッシュビルに出向く。
が、映画オタクのマイナーな
自主上映会のような映画祭だった。
怒ったヴィックは、LA に帰ろうとするが、
ある所に行くことを思いつく。

老いぼれジジイの人生リセットというと
安っぽく聞こえるが、私には響いたね。
良い映画だと思う。

バート・レイノルズを劇中の
ヴィック・エドワーズと勘違いしたと
書いたけど、イーストウッドやデニーロ、
ニコルソンが演じていたなら、
そんな混乱はなかっただろう。
つまり、ある意味、彼らに比べて
バート・レイノルズの立ち位置は、
ヴィック・エドワーズ的だったとも言える。

先日、観た『ONCE UPON A TIME IN
HOLLYWOOD』で、ディカプリオが
演じていたリック・ダルトンのモデルが、
レイノルズだったと読んで、
なるほどと思ってしまった。
そして、レイノルズは『ONCE 〜』に、
出演の予定もあったらしい。
知らなかったが、本作出演後、
昨年9月6日に亡くなっていた。

映画では、老いぼれてもうダメに
なりそうだった、ヴィックが、
映画祭をきっかけに、
新しく生きようと変わるのに。
でも、これが最後の作品だというのは、
俳優としては、最高にカッコいい。
享年82歳。合掌。


★★★★★







ジョアン・ジルベルトを探して
WHERE ARE YOU, JOAO GILBERTO?


ジョアン・ジルベルトに会おうとする、
ドキュメンタリー映画。
ジョアン・ジルベルトは、
アントニオ・カルロス・ジョビンらとともに
ボサノヴァの生んだ一人といわれる、
ブラジルの伝説的ミュージシャン。

映画の中では、ジョアンが80年代から
姿を消したというような言い方を
されているけど、そんなことはないし、
どこに住んでいるのか
生きているのかも分からないという
ちょっとミステリー仕立てに
なっているのだけど、元奥さんや、
マネージャーは、本人と連絡を
取っているのが分かっているので、
単に取材を断られているだけの
ように見えて、ちょっとなんだかなぁと
いう感も否めない。
ラストシーンも非常に微妙。

でも、ドキュメンタリーならではの、
面白い部分もあった。
例えば、元奥さんのミウシャ(シンガー)が、
「ジョアンは人たらし」だという場面がある。
自分もそれで結婚したと。
それから、『サマー・サンバ』の作曲者である
マルコス・ヴァーリが登場するのだが、
彼の語るジョアンのエピソードが、
まさにジョアンの人たらし具合を
語っていて、面白かった。
(マルコスはジョアンと一度、電話で
話しただけで、会ったことがない。)

ミウシャは、2018年12月27日死去。
そして、ジョアンは、今年7月6日に死去。
合掌。


★★★☆☆





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2019.10.19

真 実
LA VERITE / THE TRUTH


『万引き家族』でカンヌのパルムドールを
受賞した是枝裕和監督の『真実』。
本作は、フランス・日本の合作で、
カトリーヌ・ドヌーヴが主演だ。

私は、是枝作品は好きな方だが、
好き嫌い・賛否が、観客によって分かれるだろうと思う。
私にとっては、非常に考えさせられた、
『万引き家族』を観たある人が
「何が良いのか分からない」と言っていたのを聞いた。
本作もネット上の評価は、それほど高くないし、
観客を選ぶ作品だと思う。

以下、ネタバレ含みます。

タイトルの「真実」は、ドヌーヴ演じる大女優
ファビエンヌが出版した自伝本のタイトルだが、
「本当のことを書いていない」と、
娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)は
母を責める。
子供の頃から、母と娘の確執があったようで、
娘は、母親のことを許していなかった。

後半、ファビエンヌが娘に正直な気持ちを
話すシーンがある。
しかし、私はそれが彼女の本心かどうか、
本当のことかどうか分からなくなっていた。

物語には「真実」と「嘘」が出てくる。
言いようによっては、女優が「演じている」のは
「嘘」とも言える。
マネージャーのリュックを引き止めるために、
ファビエンヌは、娘に脚本を書いてと頼む。
そして、リュックの引き留めに成功する。
娘は、孫におばあちゃんである
ファビエンヌを喜ばせるセリフを言わせる。
これらは、「嘘」といえば「嘘」だし、
「本当」だと言えば「本当」になる。

ファビエンヌが、娘に話したことが
本心なのか、本当なのか、分からなくなったと
書いたが、観終えたあと考えてみても、
それは変わらない。
どちらの解釈も可能だからだ。

記憶が当てにならない、というセリフが
2回出てくる。
これは、「私たちが『真実』だと信じていることは
当てにならない」というメッセージに聞こえた。

それならば、「真実」だと「思っている」ことを
語るより、家族が幸せでいられることを
語る方がいいんじゃないか、と思った。

それは、孫が「それって真実?」と母親に訊く
シーンに集約されているように思う。

そういう解釈で、私には良い映画だった。
そのテーマだとしたら、日本人キャストでも
撮れたんじゃないかと思うけど、
やっぱり、創作者は新しいことに
チャレンジし続けないとね。

リュミールの夫役のイーサン・ホークが
ええ味出してます。
孫役のクレモンティーヌ・グルニエがかわいかった。
音楽も良い。

映画の中で、ファビエンヌが出演する
『母の記憶に』という映画の撮影が進んでいくのだが、
こちらも母と娘の映画となっており、
そちらの映画も出来れば観てみたい作品だ。

ひとつ気になったのは、
ドヌーヴがタバコ吸うシーンが多すぎね。


★★★★▲







イエスタデイ
YESTERDAY


『スラムドッグ$ミリオネア』『127時間』の
ダニー・ボイル監督作品『イエスタデイ』。

世界で12秒間の停電が発生。
売れないシンガー・ソングライターが、
その時に交通事故に遭い、
目覚めるとビートルズが、存在していない
世界に生きていた。
ビートルズの曲を知っているのは、
世界で自分だけだ。
どうする?売れないミュージシャン。
という、ファンタジーな設定。

予告編を観て、最後どうなって終わるんやろうと
思っていた。
何かの拍子に、元の世界に戻ってしまい、
全部夢だったみたいなことになるのかなと。

で、なるほど、映画ならそうなるわな、という
落としどころに終わります。

主人公ジャックが、あれよあれよと売れていく中、
元マネージャー、エリーとのラヴ・ストーリーも
並行して進んでいく。
もう、タイトルをいっそのこと
『いとしのエリー』にしたら?と思ったぐらい。

とっても、ビートルズ愛に溢れた作品で、
最後に流れるあの曲で、涙腺決壊。
エド・シーランが本人役で出演。


★★★★▲








2019.10.23

半世界

DVD で鑑賞。
稲垣吾郎主演の映画『半世界』。

稲垣吾郎というと、15年ぐらい前に
『笑いの大学』を観たのだが、
あまりに共演者の役所広司との
演技に差があり過ぎて、
観ていられなかった覚えがある。

『半世界』は、評判が良かったので
気になっていたのだけど、
劇場では見損ねていた。

わけがあって、自衛隊を辞めて地元に
戻ってきた瑛介(長谷川博己)は、
自分は世界を見てきたと思っていて、
ずっと地元にいる中学の同級生、
紘(稲垣吾郎)と光彦(渋川清彦)に
「お前らは世界を知らない」と言う。
しかし、自分の住んでいる世界が
世界だと思っている人こそが、
実は世界を知らないんだな。

瑛介が、数人相手に立ち回りをするシーンがある。
それ以上やると相手が死んでしまうという
場面で、紘は口で「やめろ」というだけで、
本気で止めに入らなかった。
そのシーンが、私には不自然に見えた。

しかし、付録のブクレットの監督のインタビューには、
「ああいう状況でパッと止めに入っていける人は、
そうはいないと思います。(中略)紘があそこで
逡巡せず飛び込んでいける男なら、
もっと嫁に優しいでしょうしね」とあった。

う〜ん、見知らぬ人ならまだしも、
友達やねんから、普通、止めに入るやろ、と
思うねんけどなぁ。
確かに、紘はちょっと事なかれ主義的に
描かれていたのは分かるけど、
あれだけ友達と関わって行く人なので、
そのシーンには、不満が残ったな。

しかし、稲垣吾郎は、『笑いの大学』の
イメージを払拭してくれた。
あれから、15年やもんな。
ちょっと、結末があっけない気が
しないでもないが、人生はそんなものだし、
それが「世界」なんだろうな。

それにしても、池脇千鶴は上手い。
稲垣吾郎の妻役だったのだが、
あるシーンの演技が素晴らしく、
ちょっとみんな持って行った感じもする。
映画館で観たかった。

監督は阪本順治。
私が観た作品では、『大鹿村騒動記』、
『北のカナリアたち』、『闇の子供たち』、
『亡国のイージス』などの監督。


★★★★☆








2019.11.9

永遠の門 ゴッホの見た未来
AT ETERNITY'S GATE


一昨日、ゴッホの墓参りと
オルセー美術館のレポートを書いた。
今日は、昨日公開された 映画
『永遠の門 ゴッホの見た未来』 を観てきた。

主演のゴッホ役に、私には
『プラトーン』の人、という印象が強い、
ウィレム・デフォー。
本作でアカデミー賞主演男優賞に
ノミネートされた。

先日のパリ往復の機内でも
観られたので、帰りの機内で見始めたが、
日本語字幕がなかったため、途中で断念した。

さて、本作。
ゴッホの絵に懸ける情熱と苦悩と
狂気が描かれている。
弟テオとの関係や、友人ゴーギャンとの
関係もよくわかる。
しかし、ゴッホを描くとどうしても
彼の死を避けて通れないのだろう。
一般的には、自殺と言われているようだが、
本作では明らかに他殺という立場から
描いている。
ゴッホ自身が、一切を語らなかったことから
謎だらけなのだが、自殺だったら、
どうして傷を負いながら家まで帰ったのか、
どうして一発で死ぬ方法を選ばなかったのか、
等いくつも疑問が残り、誰かに撃たれたとしたら、
なぜ犯人をかばったのかが謎である。
映画では、少年2人が事件に関与している
説を支持しているようだが。

オーヴェルに移り、もの凄く精力的に作品を
描いている最中の死なので、
自殺だとしても理由が分からない。
でも、一時は自分の耳をカミソリで切り落とすほど、
心が病んでいたわけだから、
普通の考えは通用しないわけで
観ている側は、落としどころに困ってしまう。

そういうわけで、ゴッホが死んで終わる本作も、
観終えてスッキリする映画ではない。

私の希望だが、サン・レミの療養所を退所し、
オーヴェルに移り住んで、思う存分、
絵を描いているところで映画が終わって
欲しかったと思う。
何かこう「充実した画家生活を送ってまっせ」
みたいなところで終わって欲しかった。
でも、現実はそんなに甘くはないよな。
オーヴェルで過ごした70日(映画では
80日となっていたように思う)も
ゴッホの精神は、健全であったかどうかは
分からない。
幻覚や幻聴もあったと描かれているが、
それぐらいでなければ、あんな絵は
描けないのかもしれない。

サン・レミ時代に描いた作品で
批評家から一定の評価を得たようだっただけど
それでも、まだ絵が売れなかったのは
なぜなんだろう。
ちなみに「生きているうちに1枚も売れなかった」
「1枚しか売れなかった」というのは、
話をドラマチックにするための宣伝だろうと
私は思っている。
確かに、あの時代、新しい画風は
すぐには受け入れられなっただろうが、
中には気に入る人もいたんじゃないだろうか。

ウィレム・デフォーの素晴らしい演技で
時々、ドキュメンタリーのようにさえ思えた。
でも、アルルに移った時、ゴッホは35歳で、
オーヴェルに移った時が、37歳。
演じているウィレムは、(撮影時)62〜63歳。
ちょっと、年を取り過ぎている感がないでもないが、
ジュリアン・シュナーベル監督は、
「この役には彼しか考えられなかった」と
言ったらしい。
まあ、ゴッホの死んだ歳を知らなければ、
何の違和感も抱かないだろうけど。

それから、ヨーロッパ映画によくある言葉のこと。
ゴッホはオランダ人だけど、パリにも
住んだりしているのでフランス語も話せたんだろうと思う。
でも、この映画のゴッホは、英語。
ゴッホだけでなく、フランス人のほとんどが英語。
時々、なぜかフランス語のシーンもあるけど。
演じているのが米国人、監督も米国人だから
英語にしたのかな。
田舎のフランス人が、流ちょうな英語を話す
シーンには少し違和感あり。


★★★★☆


 
国によってイメージが違うチラシ。
左はどこの国のモノか分からないけど。



2017年に観た『ゴッホ 最期の手紙』
もう一度観てみよう。





2019.11.10

ゴッホ:天才の絵筆

昨日は、映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』を
観てきたが、ゴッホの他の映画も観てみたくなった。
アマゾンで検索すると、『ゴッホ:天才の絵筆』と
いう39分のドキュメンタリーがあった。
プライム会員なら無料だ。

39分という短時間にとても重要なポイントが
含まれており、ゴッホを知るにはとても良いと思った。
なにより、実際の絵や風景とともに解説されるのは、
書物にはない魅力だ。

映画は、一人称で語られる。
ちょっと訛った英語なのは意図的だろう。

16歳で画商になり、その後、伝道師になるものの
上手くいかなかったゴッホは、27歳で絵を描き始める。
37歳で亡くなった彼は、わずか10年間しか絵を描いて
いないわけだが、有名な作品のほとんどは、
晩年の2〜3年に描かれている。

映画では、描き始めたころの暗い作風が、
どうして明るい色彩を得て、「ゴッホ」に
なっていったのかを作品を交えながら、
解説してくれる。

先日のパリ旅行で訪れたオーヴェールの村や
オルセー美術館が映るのも嬉しい。

ゴッホの弟テオに宛てた手紙は900通あるらしいが、
ゴッホ美術館に保管されているその手紙の
ゴッホの文字の美しさにも驚いた。
なんとなく、ゴッホは武骨なイメージで、
荒々しい文字を想像したのが、
考えてみれば、あれだけの絵を書く人。
タッチは大胆であっても、中身は繊細に違いない。

途中、日本や日本の浮世絵に触れるくだりもある。
ゴッホが、浮世絵の影響を受けたことは有名だが、
昨日の映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』でも
ゴーギャンが「マダガスカルに行く」というのに対し、
「日本は?」とゴッホが訊き返すシーンがあった。
ゴッホは、日本に行きたかったのかもしれないな。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』では、
ゴッホがなぜ死ななければならなかったのか、
「観ている側は、落としどころに困ってしまう」と
書いたが、本作では、オーヴェールでの
2ヶ月で80点以上の作品を一気に
生み続けたゴッホは、限界を越え、
燃え尽き、深い孤独と疲れに襲われたとある。
2ヶ月で80点以上というのは、
異常な量だろう。
確かにゴッホは、越えてはいけないラインを越え、
創作に命を使い切ったのかもしれない。

ゴッホの死後、半年でテオが他界するというのも
悲しいほどの兄弟の絆に思えてしまうのである。

次にフランスへ行くとしたら、
アルルに行きたいな。





★★★★▲





2019.11.17

ゴッホ 最期の手紙
LOVING VINCENT


先月のパリ旅行で、ゴッホの墓参りに行き、
オルセー美術館でゴッホの作品を観て以来、
ゴッホが、ちょっとしたマイ・ブームだ。

先日観た映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』
ドキュメンタリー『ゴッホ:天才の絵筆』に続いて、
2017年に劇場で観た『ゴッホ 最期の手紙』
再び鑑賞した。(Amazon Prime Video)

ゴッホが死んだ2年後、
ゴッホの友人でもあった、郵便配達人
ジョゼフ・ルーランが、ゴッホが書いた
弟テオ宛の手紙を息子アルマンに
テオに届けるよう託す。
アルマンは、パリでテオの死を知り、
手紙を持って、オーヴェルのガシェ医師を
訪ねるのだが・・・。

ちょっとサスペンス仕立ての展開だ。
前回観たときには、他殺のように感じた
覚えがあるのだが、もう一度観ると、
結局、自殺他殺どちらとも言えないような、
描き方に感じた。
これは、もう観る人に委ねているのだろう。
真実は、闇なのだから。

本作、全編が動く油絵で構成されている
という所が見所の一つだが、製作には
125人もの画家が参加しているらしい。
パートによっては、雑に感じるところと
素晴らしく感じところがあった。
意図的なのか、描く人によって、
質に差が出てしまったのか分からないけどね。

今回は、吹替え版で観てみた。
アルマンの声を山田孝之がやっているのだけど
どうもボソボソと喋るので、聞き取りにくい
箇所がいくつかあった。
酷いところは、何度も聴き直したけど、
何言ってるか分からなかったよ。

ラストシーン。
ジョゼフと息子アルマンが、
ローヌ川のほとりで、
テオの妻からもらった、
ゴッホのテオ宛の件の手紙を読み進める。
内容が泣かせよる。
画面が、先日パリで観て感動した
『ローヌ川の星月夜』に変わる。
そして、ゴッホの肖像画のあと、
"Starry Starry Night" が流れ、
エンドロールへと続きます。

ゴッホは、
孤独だったのだろうか。
エンドロールには、
彼が描いた多くの人々が
映し出される。





★★★★☆


"I want to touch people with my art,
I want them to say: he feels deeply,
he feels tenderly."
Vincent va gogh

作品で人々を感動させ
深く優しく感じていると言われたい。
フィンセント・ファン・ゴッホ





2019.11.17

ゴッホ 真実の手紙
Van Gogh - Painted With Words


マイブームのゴッホ、続いて 2010年に
BBC が制作したドキュメンタリー
『ゴッホ 真実の手紙
(Van Gogh Painted With Words)』

を観た。(50分) (Amazon Prime Video)

ゴッホが残した902通もの手紙と、
証言をもとに作られており、
そういう意味では、真実に近い内容と
言えると思う。

パリ以降のゴッホの動きについては、
様々なところで見聞きしてきたが、
画家を目指す以前や、
パリに出る以前の話、
特に女性関係に関しては、
知らないエピソードが多く、
とても興味深かった。
また、サンレミの療養所時代にも
発作を起こし、自殺を試みたことも
知らなかった。

ピストル自殺については、
あまり深く触れられておらず、
このドキュメンタリーの趣旨からいって
憶測や推測は、極力避けたものと感じた。

それにしても、この兄弟愛、絆は絶大だ。
生前、フィンセントを理解したのは、
弟テオだけだろうと語られるが、テオ以外、
誰がフィンセントを理解し得たであろうか。

今、2人は、おなじ墓に眠っている。
これは、最初から同じ墓に入ったわけではない。
後世の人が、そうせざるを得ないほどの
2人の仲だったんだろう。
いや、2人の想いが、人々を動かしたのかもしれない。

フィンセントの最後の手紙には、
「激しい孤独を表現したい」と
書かれている。





★★★★☆





2019.11.23

ジョーカー
JOKER


ジョーカーは、『バッドマン』に登場する悪役だ。
クリストファー・ノーラン監督のバットマン3部作、
『バットマン・ビギンズ』(2005年)、
『ダークナイト』(2008年)、
『ダークナイトライジング』(2012年)は、
3本とも劇場で観て面白かった覚えがあるし、
本作も気になっていた。
しかし、もうこれはバットマンは関係ない。
監督は『ハングオーバー』などコメディを
撮ってきたトッド・フィリップス。
ジャック・ニコルソンやヒース・レジャーが演じてきた
ジョーカーを本作で演じるのは、ホアキン・フェニックス。
かなりイッテます。
おそらく、ホアキンの代表作になるんやないやろか。

本作ではアーサー・フレックが、
どうやってジョーカーになって行ったのか、
その過程が描かれている。
ツッコミ所がなかった訳ではないけど、
全体からすれば大したことではないだろう。

ひと言で表すなら、「狂気」。
子供の頃から虐げられ、屈折して屈折して、
期待しては裏切られて、失望して、
絶望した人生を送っていると、
ジョーカーみたいな人間が
出来あがるのかも知れないと思った。

舞台となるのは、毎度おなじみ ゴッサムシティ。
NY のようだけど、ちょっと違う。
80年代の匂いがするけど、いつか分からない。
時代がハッキリしないのもファンタスティックで良い。

後半、クリームの "White Room" が流れる
シーンがあるのだが、サイコーにカッコ良い。

ロバート・デ・ニーロも出演。


★★★★★







マチネの終わりに


福山雅治、石田ゆり子主演の映画
『マチネの終わりに』。
監督は、ガリレオシリーズ
『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』で
福山とは なじみの 西谷弘。

ギタリストのラヴストーリーと聞いては、
観ないわけにはいかないだろう。
というのは、嘘で、ラヴ・ストーリーには
(それがテーマなのに)さほど
興味は湧かなかったけど、
福山がクラシックギタリストを
どんな風に演じているのか観てみたかった。

福山は、エレキやアコースティック・ギターを
弾くが、クラシックギターは、全然弾き方が違う。
監督は、手元だけ映すように
福山の手に似たギタリストを準備したが、
福山は代役なしで乗り切ったらしい。
そんな事前情報もあり、興味を持ったのだった。

ラヴストーリーの方には興味がないと書いたが、
40歳過ぎたおっさんの一目惚れの話と知り
どうして興味が持てようか。
蒔野(まきの)(福山雅治)が、
一度会っただけの洋子(石田ゆり子)に会いに
パリまで行き、いきなり告白するシーン
(告白の言葉がちょっとイタイ)には、
「ちょっと待て。冷静になれよ」と思ったし、
それに対して婚約者がいる洋子が、
迷っているのにも
「おいおい、19、20歳やないねんぞ」と、
あまりのお花畑な展開に白けそうになったんやけど、
その後の展開が予想外で、凄かった。

ネタバレになるんで書かないけど、
あまりにも酷い展開。
酷いし、怖い。
そんなわけで、ラヴストーリーの方も
結構ドキドキ。

ラストも余韻があって良いと思った。
あの後どうなるのかは、
観た人に委ねるしかないやろな。

福山のギターの演奏シーンは、
本当に弾いているんだろうけど、
音は別に録音されたもののようなので、
そういう意味では、ライブ感には欠ける。
まあ、ライブビデオと違うから、
そんなことは映画としては良いねんけど。
サントラは、福田進一が演奏しており、
福山のギターの指導にも当たったようだ。
CD には、福山の演奏も2曲収録されている。
また、福山の師匠役の古谷一行の
指導には、荘村清志が当たった。

それにしても、福山さすがやな。
(たぶん)数カ月の練習であんな風に弾けるんやから。
まあ、演技の方は、好き嫌いが分かれるかも
知れんけど、本作ではあるシーンの演技で、
知らなかった福山の魅力を感じたよ。
『ジョーカー』のあとに観たからかもしれんけど、
激しい人格の役もチャレンジして欲しい。

劇中に出てくる架空の映画『幸福の硬貨』の
タイトル曲が美しくて良い。
調べてみると、テレビや映画の音楽などを
数多く手がけている、
菅野祐悟という人の作曲だった。

原作は、芥川賞作家・平野啓一郎の小説。
パリのシーンでは、行った所が映らないかと
探してしまいました。


★★★★▲








2019.11.24

閉鎖病棟 ―それぞれの朝―


本当は、アンドレア・ボチェッリの映画
『奇跡のテノール』を観るつもりで出かけたのだけど、
上映1時間前に会場をのぞくと、なんと満席で売り切れ。
一日一回の上映なので、諦めるしかない。
事前にチケットを購入しておくべきだったが、手遅れだ。
もう1本、観たかった『蜜蜂と遠雷』も
(別の映画館だけど)これまた売り切れ!
で、それならばと観たのが
笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈らの
出演している『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』。

原作は、精神科医でもある作家、
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)の、
1995年に山本周五郎賞を受賞した小説。

どこかで見聞きしたことのあるような
ストーリーでそれ自体には、目新しさはないが、
テーマは、永遠に正解がないような
哲学的な問いにあるように思うのだが、
いかんせん設定が良くない。
こんな精神病院があってはならないと思う。

患者が、院内である事件(犯罪)を犯す。
犯人は、すでに院内で問題を起こしており、
危険で要注意人物であった。
そんな危険人物をなぜ隔離していなかったのか、
なぜ自由にウロウロさせたのか、
全く不可解なのだ。
一応、監視されているようなのだが、ぬるい。
これは、病院の過失といっても良いほどの
事件だと思った。
他にもいくつかツッコミ所があり、
リアリティは、かなり低い。

精神病院というデリケートな舞台を
扱うのだから、その辺はキッチリして欲しかった。
とはいえ、原作は精神科医。
ネットのレビューをいくつか読む限り、
映画は原作通りでないような記述があったので、
原作はもっとちゃんと書かれているのかも知れない。
(賞を獲っているぐらいやし。)
テーマが良かっただけに、もったいないと思う。

「その優しさをあなたは咎めますか?」というのが
映画の宣伝コピーなのだが、このコピーもどうかと思う。
鶴瓶演じる梶木秀丸のことを言っているのだろう。
確かに梶木は、優しい人間として描かれている。
しかし、梶木がとった行動が、果たして、
「それは優しさですか?」と問いたい。
ここは、『グラン・トリノ』のウォルト・コワルスキーと
大きく違う。
コワルスキーの行動にも是非があるだろうけど。

そして、タイトルの「閉鎖病棟」。
舞台となる病棟は、全然閉鎖されていないのにな、
と思っていたら、原作を読むと「閉鎖病棟」の意味が
分かるという記述を読んだ。
それは、映画を観ても分かるようにしくれないと。

そんなわけで、ちょっと悶々としてしまう作品だった。
出演者の演技は、それぞれ良かったのにな。
特に綾野剛はいいと思った。

監督は、『太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男』
『エヴェレスト 神々の山嶺』などの平山秀幸。


★★★▲☆








2019.12.6

バグダッド・カフェ
<ニュー・ディレクターズ・カット版>
BAGDAD CAFE


映画『バグダッド・カフェ』を観たことがなくても
主題歌の "Calling You" を
聴いたことがある人は、多いだろう。

『バグダッド・カフェ』が、
日本で公開されたのは、1989年。
今年は日本公開30周年ということで、
Bunkamura ル・シネマ(渋谷)で
2週間限定で 上映中だ。

1994〜95年頃、私は大阪の映画館で
この映画を観た。
94〜95年ということは、ロードショーではなく、
リバイバル上映だったんだろう。
Wikipedia には、「1994年には、
オリジナル版に17分の未公開カットを
追加した『バグダッド・カフェ 完全版』が
リバイバル上映された」とあるので、
それだったのかもしれない。

今日観てきたのは「完全版」ではなく、
「ニュー・ディレクターズ・カット版」だ。
これは、「完全版」のカットの色と構図を
パーシー・アドロン監督が自ら
調整し直したものらしい。

25年前に観たときのこと。
"Calling You" は、てっきりホリー・コールが
歌っているものとばかり思ってたら、
ホリー・コールではなかったことに
驚いた覚えがある。
オリジナルは、ジェヴェッタ・スティールという人が
歌っていてが、ホリー・コールはカバーだったんだ。

期待して観に行ったのに
その時は、「あんまり面白くなかった」
「何が良いのかよう分からんかった」という
感想を持ったように覚えている。
映画の内容は何も覚えていない。
ある女性との初めてのデートだったが、
その女性とは、それっきり会っていない。
その後、年賀状に「結婚します」という
言葉を見たのが最後だ。

それはさておき。

あれから、25年。
30周年記念 特別上映と聞いて、
なぜ本作が名作と言われ、
こうやって繰り返し上映されるのか、
今なら何か分かるかもしれない、
と思い観てきた。

ひと言でいうと、とても良かった。
「人間」を描いていると思った。
きっと泣くような映画ではないのだと思うけど
途中で泣きそうになったシーンまであったよ。

アメリカに旅行に来ていたドイツ人夫婦が
喧嘩をして、妻のジャスミンは車を降りる。
そして、砂漠の中を歩いて、
一人でバグダッドカフェにたどり着く。
バグダッドカフェは、砂漠の中にポツンとある、
カフェ兼ガソリンスタンド兼モーテルだ。
女主人のブレンダは、不機嫌極まりない人で、
一日中怒っている。
ジャスミンのことも気に入らない。
しかし、カフェにいる人たちは、
徐々にジャスミンに魅せられて行く。
ブレンダは、子供たちがジャスミンに懐くのも
気に入らないが、やがてブレンダも
ジャスミンと仲良くなっていく。
そして、ブレンダはガミガミ言わなくなり、
表情まで違った人間に変わってゆく。

ジャスミンがなぜ夫婦喧嘩したのかは描かれていない。
ジャスミンが魅力的に描かれているだけに
なおさら気になるけれど、映画の本筋とは関係ないし、
冒頭の夫婦のシーンから察するに、
どうしようもない旦那だったということは分かる。
でも、一応、彼はジャスミンを探しにくるんやけどね。

特に印象的だったのは、
「音楽の誕生」とも言えるシーンだ。
ブレンダの息子、サロモは一日中ピアノの練習を
しているのだが、ブレンダには
「お客さんがいる時には弾くな」と
しょっちゅう叱られている。
ある日、サロモが練習中にジャスミンが
カフェに現れた。
ピアノを弾くことをやめようとしたサロモに
ジャスミンが「続けて」と言う。
とたんにサロモのピアノが変わった。
ただの「音の羅列」から「音楽」になったのだ。
ここは、ええシーンやったなぁ。
もちろん演出でピアノの演奏をあからさまに
音楽的に変えているんやけど、
聴いてくれる人がいることで、
こんなに世界が変わるという表現が
素晴らしいと思った。
サロモがジャスミンに「どこから来たの?」と訊く。
ジャスミン「ドイツから」。
するとサロモは「やっぱり」と言って
壁に貼ってあるバッハの肖像画を見るオチまであった。

サロモのピアノ演奏を目を閉じて
聴いているジャスミンを見て、売れない画家の
コックスは何かを見出してしまい、
ジャスミンをモデルに絵を描き出す。
この時のジャスミンは、まるで女神のようだ。

ラストシーン、セリフもいいな。
でも、一つだけ気に入らなかったのは、
後半のミュージカルもどきのシーン。
あれは、余計やなぁ〜。
ジャスミンのマジックが、人気になって
お客さんがたくさん来るようになった、
楽しいショーを演るようになったというのは、
カフェの客が歌い出すというような、
演出をしなくても表現できるだろうに。
あのシーンは、それまでとトーンも温度も
違うので、凄く余計に感じたね。
「ニュー・ディレクターズ・カット版」には、
91分だったオリジナル版に
17分の未公開シーンが付け加えられていると
いうことなので、もしかしたら、あのシーンは、
オリジナル版には なかったん違うかなと
思うぐらいの違和感だった。

あともう一つ。
最後のセリフから暗転して、
音楽が流れだすまでの間。
これが短い。
あと1〜2秒、沈黙があれば
もっとグッときたのにな、と思う。
なぜ、あんなに急いだかね。

それらを除けば、とても良かった。
なるほど、ファンが多いのも納得の作品だ。
ジャスミンの素性が全く分からないので、
ちょっとおとぎ話的でもある。

25年前、まだ若かった(30過ぎ)私には、
この映画の良さは分からなかったんでしょう。


★★★★▲(惜しい)





映画とは、全く関係ないけど
「BAGDAD」っていう文字の並びを
見ていたら、その音にギターをチューニングを
してみたくなったので、試しにやってみた。
6弦(低い方)から、
「B(シ)、A(ラ)、G(ソ)、
D(レ)、A(ラ)、D(レ)」だ。
普段張っている弦の太さでは、
かなり無理があったけど、
面白いチューニングになった。
国籍不明の響きだ。
新しい。

で、ふと気づいた。
「BAGDAD CAFE」。
これ全部、音名やん!
ドレミでいうと、「シラソレラレ ドラファミ」
試しにギターで弾いてみる。
ワルツにして、コードも付けてみる。
4小節のメロディだ。
おお〜、これ曲になるぞ!





2019.12.8

アイリッシュマン
THE IRISHMAN


久しぶりの3時間半(209分)映画、
『アイリッシュマン』。
マーティン・スコセッシ監督、
ロバート・デ・ニーロ主演とくれば
観ないわけにはいかない。
おまけに、アル・パチーノ、
ジョー・ペシも出てるんだから。
出番は少なかったけど、
ハーヴェイ・カイテルも出てたよ。

マフィアの映画だというぐらいの予備知識で
観たのだけど、原作はノンフィクションで、
登場人物は、実在した人たちだった。

映画の中では、年代は表示されないのだけど、
すっかりジジイになったフランク・シーラン
(ロバート・デ・ニーロ)が、老人ホームで
1950年代を回想するところから始まる。
調べてみたところフランク・シーランは、
1920年生まれだったので、デ・ニーロ(76歳)は、
映画の中で30〜50代、
そして、80歳ぐらいを演じていることになる。
若いころのシーンは、さすがに、30代には
見えないけど、40代ぐらいには見える。
メイクと CG 技術の力だろう。
フランク・シーランは、トラックの運転手から
マフィアで出世していく、ヒットマン。

ジョー・ペシは、『グッドフェローズ』や
『カジノ』の頃は、なんとなく落ち着きのない
かん高い声の短気な男を演じていたような
気がする(イメージです)のだが、本作では、
ラッセル・ブファリーノというマフィアのボス。
どうもその先入観からか、あんまり
怖く見えないのだけど、一番怖い人。

そして、アルパチーノ。
ジミー・ホッファという、全米トラック運転手組合の
委員長で、ケネディ大統領の弟、
ロバート・ケネディ(司法長官)に告発され、
懲役13年刑が確定。
ニクソン大統領の特赦で4年で出所。
その後、行方不明になり真相は謎のままだが、
本作では、ある男にジミーを殺させる。

先日、飛行機の中で
『ゴッドファーザー』(1972年)を観たのだが、
アル・パチーノは、あの頃とは別人やなぁ。
ロバート・デ・ニーロも年取ったけど、
なんか若いころとつながって見えるのは、
出演作をたくさん観ているからだろうか。
デ・ニーロとアル・パチーノといえば、
『ヒート』(1995年)以来かな。

登場人物が多く、前半は、誰が誰だか
覚えきれず混乱に陥った。
でも、途中からなんとか話についていけるようになった。
本作は、ケネディ大統領暗殺、キューバ危機
などの歴史も絡んでくるので、多少は、
時代背景の知識があった方がより理解が深まるだろう。
せめて、ジミー・ホッファが何者かぐらいは
分かっていた方が良い。
私は何も予習せずに観たので、わずかな知識を頼りに
かなりの推測で乗り切ったよ。

タイトルの「アイリッシュマン」の意味は、
フランク・シーランがアイルランド系アメリカ人だったから。

ボスの命令であれば、いとも簡単に
殺しを働くフランク。
殺しに罪悪感や迷いを感じさせない
フランクが、娘とはうまくいかなかったという
父親としての苦悩も描かれており、
そこはやはりアメリカ映画っぽい。
家族を守るために悪事を働き、
その結果、家族に嫌われるという
哀しい男の物語とも言える。

3時間半を全く長いと感じさせないのは
素晴らしいと思う。
一度も時計を見なかったもん。
が、誰にも感情移入は出来ない。
(ほとんどマフィアなので当たり前か。)

本作、Netflix で配信されているのに
劇場公開もされている。
こういうの、新しいスタイルなのだろうか。
良く分からないけど。
3時間半の映画は、劇場としては、
嬉しくないだろうが、映画ファンとしては
やはりスクリーンで観たい。

50〜60年代の映像に合ってるからだと
思うけど、音楽も良かった。
プロデューサーは、ロビー・ロバートソン!
久しぶりにサントラ欲しいと思ったよ。

でも、これ、スコセッシのメッセージは、
1回観ただけでは分からないんだろうな。


★★★★☆








2019.12.10

ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!
A HARD DAY'S NIGHT


1964年公開のビートルズ初の映画、
『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』。

今更やけど、凄い邦題やなぁ。
原題 "A HARD DAY'S NIGHT" が、
「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」とは。
これ、映画評論家の水野晴郎氏が、
映画会社に在籍時代に付けたらしい。
ニュース映画『The Beatles come to town』と
取り違えて命名したという説もあるようだけど、
あまりに時代に合わなくなったと感じたのか、
今では映画のタイトルを
『ハード・デイズ・ナイト』としながら、
「旧タイトル『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!
ヤァ!』」と表記されている。
(いまだに旧タイトルのままの表記も多い。)

ところで、私の年代でロックやポップスを
聴いたり演奏したりする人で、
ビートルズに全く影響を受けていない人は、
(間接的な影響も含めると)いないと思う。
私も初めて買った洋盤 LP レコードが、
彼らの "Help!" なわけだけど、
どういうわけか(当時の)ビートルズの映画は
今まで1本も観たことがなかった。
先日、『アイリッシュマン』を観に行った、
渋谷 UPLINK で、『ハード・デイズ・ナイト』を
上映しているのを発見したので、
これはぜひ劇場で観ておこうと思い観に行ってきた。

なぜ今『ハード・デイズ・ナイト』なのかというと、
今年が、映画公開55周年の記念上映なのだった。
UPLINK のサイトの紹介文には、
1964年公開当時「スクリーンに向けて絶叫が
飛び交い、観客が映画の中の4人に突進して、
スクリーンを破ってしまったというエピソードも
残されている」とある。
ほんまいかな、と思うが、
その人気の異常さが分かろうというものだ。
でも、そんな(音楽を聴いてくれずに絶叫している)
ファンの前で演奏するのがイヤになって、
その後、彼らはライヴをやめてしまうんやけどね。

さて、『ハード・デイズ・ナイト』。
モノクロだけど、ノイズが全くなく、
とてもきれいな映像だったので、
デジタルリマスター版だろう。
当たり前かもしれんけど、これは、
ビートルズファンのための映画だと思った。
もちろん、私もビートルズの音楽は、
好きなのだが、映画としては、
正直にいうと途中で飽きてしまった。
87分と短い映画やけど。
口パクでも当て振りでも演奏シーンは
それなりに楽しめるのだけど、それ以外は
ストーリーが面白くない上に、ギャグも笑えない。
55年前の映画だからということもあるだろうけど。
まあ、長めの PV と考えて、
映画としては云々するべき作品でも
ないのかもしれないけどね。

4人のファンなら、若いころの彼らが
動いているだけでも価値があるのはよく分かる。
私だって、ジョンとジョージが映ると
彼らがこの世にいないことが、
何度も意識に上がってきて
楽しいアイドル映画なのに
ちょっと感傷的な気分になったもの。

映画の中でもアイドルの4人は、
ファンに追いかけ回される。
そして、公開生放送の演奏シーンでは、
ティーンエイジャーの女性ファンたちは、
演奏は聴かずに、絶叫し続ける。
それが、演技には見えないので、
当時の本当のファンを集めて
撮影したのかも知れないと思った。

観た後に知ったのだけど、
前半、貨物車両の中のシーンに
出てくる女子学生の中に
パティ・ボイドがいるらしい。
この撮影中にジョージとパティは、
恋仲になり、その後、結婚する。
そして、ジョージの友人でもあった
エリック・クラプトンがパティに恋をして
ややこしいことになっていくのだけど。

意外にもリンゴとジョージの出番が多く、
ポールとジョンは控えめな印象だった。

劇中に流れる楽曲は、もちろん素晴らしいよ。
"A Hard Day's Night"、"All My Loving"、
"I Wanna Be Your Man"、"She Loves You"、
"Can't And I Love HerBuy Me Love" など。


★★★☆☆








2019.12.29

世界で一番ゴッホを描いた男
中国梵高/CHINA'S VAN GOGHS


日本では、昨年公開されたのだが、
劇場では観なかったドキュメンタリー映画
『世界で一番ゴッホを描いた男』を
DVD で鑑賞。

原題は『中国梵高/CHINA'S VAN GOGHS』
なので、ゴッホは中国語で「梵高」と
書くのだろうな。

中国のダーフェンという街は、
油画村として知られているそうで、
約1万人の画工の手で複製画が制作され、
世界中へ輸出されている。

このドキュメンタリーでは、
田舎から出てきて、その街で20年間、
ゴッホに魅せられ、ゴッホの複製画を描き続ける
シャオヨンさんにスポットを当てる。
40日で800枚の複製画を仕上げるという
注文が来る。
それを家族と弟子、数人が
衣食住一体となった工房で仕上げるのだ。

ゴッホを描き続けたシャオヨンさんは、
ゴッホの原画を見たいと切望するようになり、
ついにアムステルダムへと向かう。
アムステルダムには、シャオヨンさんの
複製画を大量に購入してくれる
お得意様がいるのだ。
そして、シャオヨンさんがアムステルダムで、
見たものとは・・・。

以下、ネタバレだと思うのだけど、
予告編に出てくるので書くことにする。
シャオヨンさんは自分の描いた絵が、
アムステルダムの土産物屋に
並んでいることにショックを受ける。
高級な画廊で売っていると思っていたのだ。

自分は、芸術家なのか職人なのか
葛藤が始まる。

シャオヨンさんは、ひとつの答えを出すのだが、
私はどうもスッキリしない。
まるで、ゴッホの最期のように、
スッキリしないのだ。

それは、このドキュメンタリーが、
芸術の話でありばがら、それ以上に
世界の経済の縮図に見えるからかもしれない。

「ゴッホも生活のために絵を描いた」という
言葉にシャオヨンさんは
「ゴッホは芸術の高みのために描いたんだ」と
応える。

この映画により、シャオヨンさんの
絵の値段が上がったことを祈るが、
現在のシャオヨンさんが、どうしているのか
気になるところだ。


★★★★☆









 ひとりごと